これらのことから、放卵・放精期の前においては、貪食率の高低に最も大きく影響するものは水温であり、フランスガキにとっての好適水温の範囲内では高い方が活性をより亢進すると考えられる。
一方、溶存酸素量についてみると、昨年度の東名地先では他の調査地点と比較して4mg/L以上も低く、必ずしもよい条件であったとは考えられなかった。しかし、今年度は大きな差はなく、個体の生理活性に影響するほどのことはなかったと考えられる。塩分濃度についても同様であった。
一方、7月の測定では、6月の結果とは大きく異なっていた。すなわち、6月には貪食率の低かった竹ノ浦試料が57.6%と大幅に上昇して東名地先と野蒜沖の2地点と比較して有意に高くなった。舞根試料は、54.7%と竹ノ浦に近い値であった。東名地先と野蒜沖の2地点では、どちらも貪食率は大きく減少した。東名地先では44.1%と6月と比較して17%以上も低下した。また、野蒜沖は32.8%と著しく低い値であった。7月の試料における4地点の間での貪食率の違いについては、水温だけでは説明できないと思われる。すなわち、最も貪食率の高かった竹ノ浦の水温が最も低く、東名地先と比較すると約6℃もの差がみられた。また、野蒜沖と舞根の水温は各々18.8℃、19.0℃で、ほとんど同じであった。東名地先(23.9℃)での貪食率の低下は好適水温を超えたことによる可能性もあるが、水温としては東名地先と竹ノ浦の中間を示し、舞根と違いのなかった野蒜沖の貪食率が最も低かったことを考慮すると、水温だけが要因とは考えにくい。この場合、その他の要因として放卵・放精の影響が考えられる。この時期は、各地点の個体で性成熟が進行して放卵・放精、少なくも放精のみられた個体が多かった。最も進行していたのは東名地先であり、部分的な放卵を行ったと考えられる個体もみられた。野蒜沖の試料についても、放卵の可能性があった。放卵・放精は大きなエネルギー放出を伴うものであり、そのことが貪食能にも影響したことも考えられる。
8月、9月については、東名地先の試料だけが他の3地点と比較して異なる動態を示した。すなわち、いずれの試料においても8月の貪食率は7月よりも低下する傾向にあるが、東名地先の低下の度合いは特に大きく、竹ノ浦試料の値に対して有意に低いものであった。