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あとがき

 

需要を先導してマーケットをリードできないか?

この提言は他の業界、たとえば自動車産業や情報産業に目を移した場合に見られる一つの特徴的事実に基づいたものである。自動車業界では将来の需要がどこにあるのかを世界規模で模索し、需要者に先駆けて製品を発表し商品化販売していく姿勢がある。社会情勢や経済情勢の動向、顧客の好みの変化に非常に敏感に反応してそれを先取りする。顧客はそれに引きずられて結局新製品を購入してしまう。最近の例はいわゆるセダンタイプの飽和状態を察知し、同時にアウトドア志向をキャッチしてRV車を開発してマーケットをリードした。現在はRVの退潮を自らリードしつつ次の新機種である世界マーケットを支配する小型車開発に矛先を向けている。さらには地球環境およびエネルギー問題を先取りした超高燃費の電動/ガソリンのハイブリッド車開発、究極のエンジンといわれる燃料電池車の開発に各社しのぎを削っている。これらはいずれも社会のニーズと世論の後押しがあるために少しも非難されることはなくむしろ歓迎されているのである。

一方情報産業の中心に位置するパソコン業界、特にOS(オペレーションシステム)に関しては、ほんの数年前まではいわゆるMS DOS全盛で、マニュアルを片手に試行錯誤された経験者も多いことだろうが、ようやく扱い方に慣れたと思ったら新しいOS、WINDOWSが開発発売され、それも3.1から始まり95更には98と矢継ぎ早の発表でこちらは完全にソフト業界がマーケットをリードしてしまっていて、需要者は後追いしているのが現状である。これにはDEFACTO STANDARDという枕詞さえ付くようになった。

これらに共通したことは、社会情勢、経済情勢の変化を先取りした、生産者側の意識的な需要の創造であり、我々顧客はそれに先導された形で新機種を購入させられるといった図式である。造船の場合機種の大きさや価格規模が比較にならないぐらいに大きいが購入する側の船主も同様の経済力規模を持っていると考えれば相対関係は一緒である。船舶では装備されている機械類、機能、システムいずれをとっても陸上機器に比べれば範囲が広く且つ種類も多い。それだけ戦闘正面が広い、あるいは対象機器が多いといえよう。新しい経済や社会システムの萌芽期にある現在と考えれば、将来の海上輸送機器に要求されている機能や条件に対しては、単にコストダウンして安ければ良いといった刹那的なものとは別の次元で大きな流れがあるはずである。それを早く察知しよう、そして船主にとって魅力的な製品とするためにはそれをどう生かせばよいのかを考えよう。或いは輸送機器の定義から解放されて、海洋機器と範囲を広げれば全く新しい分野も広がってくる。これらには技術開発力が不可欠であるが自社一社でそれを賄おうとすることは特定の大手を除いては容易ではない。外力を利用すること或いはグループでの対応も考えられよう。

 

 

 

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