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る。資源小国の日本にも、四国・紀伊半島沖にある南海トラフ海域についても有望な天然ガスハイドレイトが存在する可能性が高く、エネルギーの大需要地の近くに天然ガス資源が存在するのである。その量は4200億ないし4兆2000億m3と見積もられている。世界の海域では221兆ないし1650兆m3の資源量と見られており、これは現在の天然ガス確認埋蔵量のおよそ1.6から12倍に相当する量で、効率よい掘削ができればガスハイドレイトの膨大な貯蔵はエネルギー経済を石油依存からガス依存に交換する可能性さえある。

ガスハイドレイトは温度、圧力の変化に敏感であることが大きな特徴で、逆にこの性質を利用して水とガスとを分解して、固体結晶体から取り扱いが容易な流体状態に変換すれば採掘することが可能となる。図2にメタンハイドレイトの相平衡図を示すが、安定状態にある固体結晶からメタンを取り出すためには圧力を下げるか、或いは温度を上げてやればよい。海底地層の中でこれらの操作を行うことは技術的課題が多いが、基本的な操作は実験室レベルでは可能であり、わが国の技術力を考えれば不可能なことではないだろう。このようにメタンハイドレイトの採掘は地球環境問題や、新しいエネルギー源の開発の双方から見て我々に将来の夢を与えるものであり、今後の展開が期待される。

これをわが国の深海技術、採掘技術、それらを支援する海洋構造物、海上での気液分離とガス液化プラント、LNGとしての輸送タンカーおよび陸上の受け入れ基地等の建造技術にあてはめてみれば、インフラストラクチャーを含めた多くの新しい事業機会をもたらすものである。従来の原油採掘や天然ガス採掘のように100%をエネルギー開発業界にゆだねるのではなく、造船業界が中小ヤードも含めて技術開発の初期段階から参画し、新しい技術の構築、習得、と実機建造への筋道をつけておくことは重要であろう。同時にこれは造船業が単なる運び屋でなく、埋蔵エネルギーの採掘権と難しい採掘技術を有するエネルギー上流に位置した技術集団への転進を可能にするものである。

中小ヤードも早期から参画し、しかし単独社での対応は困難であろうし、不可能でもあろうから開発組合のような形で各社から得意分野のエンジニアを選び、共同で取り組めば十分大手に対抗できる技術開発は可能と思われる。まったく新しい異分野への挑戦で得られる各種ノウハウ・ソフトは大変に貴重なものであり、閉塞状態の業界に新分野への取組のためのチャンスを提供できるのではなかろうか。研究開発・資金余力に乏しい中小が、ある一定期間、開発チームに参画し成果をあげるためには国からの何らかの形での財政支援は不可欠であろう。

 

 

 

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