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I. 造船業の動向

 

1. 造船業の概要

 

(1) 造船業の産業的な特徴

造船業では、他の製造業に比べて次のような産業的な特徴が挙げられる。

1] 単品受注産業

造船業は、同じ輸送用機械産業でも、大量見込生産を行う自動車産業とは異なり、一隻一隻の船舶を受注して建造を行う単品受注産業である。このため、大量生産による規模のメリットは享受しにくい。しかしそうした中でも、大手を中心に、船舶の仕様を標準化し、同型船の連続建造を行うことによってコスト削減を図っている造船所もある。

2] 激しい好不況の差

主要顧客である海運業が海上運賃市況に大きく左右される市況産業であるため、変動する海上運賃市況につられて、ある時は一斉に船舶の発注に向かい、ある時は同時に見合わせるといった波を繰り返す。その結果、新造船の受注量は実際の船腹需要に比べて大きく変動することとなり、船価も受注環境に応じて大きく上下するなど、好不況の差が激しい。

3] 供給過剰に陥りやすい市場構造

船舶の受注から引き渡しまでは、通常1年〜3年の長期間を要し、建造した船の売上げは顧客への引き渡し時に計上される。このため、受注の増減が収支に波及するまでには大きなタイムラグが発生することとなり、他産業に比べて数年遅れで好不況の波を受ける構造にある。加えてこのタイムラグにより、需要が上昇局面から下降局面に転じた場合でも、さらに新造船の供給が1年〜3年続くこととなり、新造船市場は供給過剰に陥りやすい構造にある。

4] 新造船業と修繕船業

製品である船舶の寿命が平均15〜20年と長く、船主は船舶を検査・修繕しながら使用するため、造船所にとっては、修繕船業が新造船業に並ぶ業務の柱となっている。どのような割合で新造船及び修繕に取り組んでいるかは各造船所の経営戦略によってまちまちであるが、好不況の波の激しい新造船業に比べて、一般に修繕船業は仕事量が安定しており、利益率も比較的高い。

5] 幅広い企業規模

千人単位の従業員を抱える大手造船所から数名規模の中小造船業が存在し、建造する船舶の船型船種も異なっている。大手造船所では、主にVLCC(20万重量トン以上の大型タンカー)等の大型船、外航船等を建造し、中小造船所では内航船、近海船、漁船、小型作業船等を建造している。生産効率等の面から大手造船所が中小造船所の建造分野に乗り入れることは少ないが、官公庁船の分野では、設備的に中小造船所でも建造可能であるが、実績、信用の面から大手造船所に発注されることが多くなっている。

 

 

 

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