日本側からの提案は、とりあえずヴィエトナム側で引き取って検討することとなった。
その結果、返ってきた回答は、留学用の円借款は有り難く、お願いしたいが、留学先はヴィエトナム側で決めさせて欲しいということであった。それはどういうことかと質してみると、日本の円借款はひも付きでないはずだから、留学先にもひもがついていないと思われ、欧米に留学させたいとのことである。そこで、「いや、こればっかりは、日本に行くことが前提ですよ。」というと、「大変申し訳ないが、日本行きを希望する者があまりいないのです。」とやられて、ぐさっと来た。
確かに、ヴィエトナム人たちにして見れば(日本人でもそうかもしれないが)留学に行くからには、やはり英語がうまくなりたいという気持ちなのかもしれない。また、ヴィエトナムの中で「日本の大学は大したことがない。」と噂されているということも聞こえてきた。やはり、ヴィエトナムの人たちにとって、日本は近くて遠い国なのだろうか。
(2) 開発・投資のボトルネック
前項で述べたように、着任後、開発調査と技術協力の担当者として、我が国の技術協力をヴィエトナム側に勧めてみたが、要は資金協力が欲しいと言うことで、なかなか前進しなかった。また、特に民間投資に期待しているということである。
確かに、ヴィエトナム側のカウンターパートの人たちは優秀そうなので、ひょっとしたら、ないのはお金だけで、お金さえあれば万事うまく言ってしまうのかもしれないとも思い始めた。そこで、ヴィエトナムの開発と投資の実態を見てみることにした。すると、なかなか、開発や投資は円滑に進んでいないということが判ってきた。以下にその実例のいくつかを紹介する。
【苦闘する日系企業】
まず、現地に進出して合弁会社を作っている日系の運送会社を当たってみた。この会社は、当時増加しつつあった在留邦人や現地日系企業相手の輸送サービスをねらって進出したそうだが、事業そのものは順調に展開しているものの、当初の予想よりも日本人スタッフが必要となり、経営は楽ではないとのことである。なぜ、日本人スタッフが必要かと尋ねると、そもそもヴィエトナムではつい最近まで計画経済をやってきたために、日本とは「顧客サービス」という概念がだいぶ異なるとのことであった。即ち、計画経済では、1ヶ月のノルマが決められており、運送業と言ってもその範囲内で「とにかく運べばよい。」のである。したがって、顧客から預かった荷物が「いつ着くかは判らない」とか「多少汚れる」などということは、当たり前なのである。しかしこれでは、顧客である日本人は満足しない。また、経理処理のやり方もだいぶ異なるとのことである。簡単な一例を挙げると、日本では売り上げなり、支払いなりはそれぞれ漏らさず記帳するのに対して、ヴィエトナムでは、売り上げと支払いが同じ金額の場合には記帳しないこともあり得るとのことである。しかしこれでは、日本人経営者として経営管理が不可能である。