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そこで、ヴィエトナムの社会開発ニーズに即した協力を推進していく必要があるのだが、大使館から時々アポイントをとってヴィエトナム政府関係者と意見交換するだけでは、一体何がヴィエトナムの社会開発ニーズに即しているのか、よくわからない。それにはやはり、彼らとともに働くような専門家がどうしても必要であろう。しかし、前項で述べたように、ヴィエトナム側は専門家受け入れに消極的であり、当時、これが、開発調査と技術協力を担当していた著者の頭痛の種であった。また、一体どこから手を着けるべきかと悩んでいた。

着任後しばらくしてから、ある在留の邦人の方から、ヴィエトナムの交通運輸省にはいくつかの研究所があり、そこでいろいろな開発計画を検討しているということを聞き込んだので、その研究所に行ってみることにした。研究所の廊下を歩いているといくつかの部屋のドアに、ヴィエトナム以外の国の国旗のプレートがはってあることに気がついた。後で関係者に聞くと、外国のコンサルタント会社との合弁会社が研究所の中にできているとのことである。ヴィエトナムでは、ドイモイ政策によって経済発展はしているものの、国家財政が苦しく、政府が研究所に支給する研究費や人件費は、ここ数年来据え置かれており、毎年のインフレ率が10%前後であることから、実質的には目減りしているそうである。従って、なるべく外国政府や企業と共同して研究室を運営しているとのことである。

なるほど、これでは日本から専門家を受け入れようにもスペースがないわけである。さすがにラボごと外国政府や企業に囲い込まれてしまうと、これでは技術協力のしようがない。ひょっとして、我が国の円借款を実施するときには、それらのラボがエンジニアリング・サービスをするのであろうか。

 

【投資が欲しい】

一般に、開発途上国が経済発展を遂げるには、輸出競争力のある製品を製造できるようになることが重要である。これを実現するためには、ある程度は技術と資金を海外から呼び込むことが必要であり、このことは、3年前のヴィエトナムでも、十分認識されていた。しかしながら、我が国経済界はヴィエトナムヘの投資を真剣に検討していたが、インフラの整備水準が低いためにやや慎重に構えていた。これに対して、当時は韓国勢や台湾勢が日本を上回る積極的な投資を行っていた。したがって、日越政府間で経済協議を行うと、ヴィエトナム側から、「もっと民間投資をして欲しい。」ということを特に協調していた。

 

【留学資金は欲しいが、日本には行かない】

着任してから1年ぐらいたった頃、本省から1本の連絡が到達した。日越関係を深めるために、ヴィエトナムの若手が日本に留学するための費用を円借款として手当する用意があるので、ヴィエトナム政府側の意向を聞いてみるようにとある。そこで、早速大使館経済班でヴィエトナム政府と折衝することとなった。

ヴィエトナム政府関係者によると、従前は政府の若手職員で有望な者を相当数ソ連や東欧に留学させていたが、ソ連崩壊後、相手方が受け入れてくれなくなったために今では留学させる機会が減って困っているとのことである。また、最近では、フランスやオーストラリアが熱心に援助を行っており、それぞれここ数年で累計1000人程度を受け入れたとのことである。

 

 

 

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