しくなった中でも、きちんきちんと毎年返済してくるという意味では、新幹線を世銀で借りた日本と同様、非常に優等生だったわけでございます。
その中で、OECFの全体の予算の中で、どの国のポーションを何割ぐらいでシェアをやっていくかというのは、非常に重要な銀行家としての戦略でもございまして、そこら辺が、これから言う、バンコク地下鉄なり空港とかで、数千億円に及ぶインフラ整備に、外務省、もしくはOECFが着手するきっかけであったんじゃないかなという気がしております。
一方で、運輸省の利害というのは、運輸省の方もたくさん来ていらっしゃるので非常に言いづらいのですが、大使館に行って、公務として、オブザーバーとして見ている中では、特に、地下鉄について強力と。これは非常に、もともと願望としてあったわけでございますが、一方で、ここに至るまでいろんな経済協力で辛酸をなめてきた歴史がございます。例えば、円借款を入れるけれども、建設会社の入札で落札できないとか、もしくは、建設は日本企業がやったのだけれども、日本の車両が走らないとか、そういった辛酸をいろんなところでなめてきた歴史がありました。タイ政府はその意味で言うと、非常にリーズナブルな国民性がありまして、ある程度お願いすると、何かやってくれるというようなところがございます。そこで、この地下鉄というのは、金額的にも、これまでの経済協力の規模的には最高の額になりますし、運輸省としても、目に見える協力をしたい。したがって、車両まで含めて、何とかこの経済協力を完遂する。その中には、技術協力も含めて、すべてこのプロジェクトを、円借款部分以外も含めてパッケージで考えて、それでやっていくという動機がございました。
そうした両省の動機づけがちょうど一致したところに、私どもおりましたので、非常に幸運なことに、話はとんとんと進んで、円借款供与の大前提となる、2国間の調整が行われて、まあ、大体これぐらいで行くかという話があったわけでございます。一方で、途中で、1996年の夏に行われた建設にかかわる入札で、よもや予期もしないというか、日本の企業が負けてきちゃったわけでございます。建設会社さんが入れたお金が、フランスの企業だったと思いますけれども、そこに比べて20%ぐらい高いということで。実は、その入札の状況というのは、タイのテレビで放映されまして、先ほど申し上げましたタク・シンという副首相が読み上げていくシステムをとったわけなんですが、そこで、日本は3つぐらいのグループが出たんですけれども、一番安いグループでも、フランスの最安値をつけたところと20%以上の開きがあるという結果が出ました。
そこら辺がタイ人の非常にリーズナブルなところなんですが、お金を貸してもらっている日本の企業がそこで落ちるというのもどういうものだろうということで、当初から、副首相が落札額を読み上げた時点から、すぐに記者会見を行って、タイ語がわからないものですから、ここがよくわからないのですけれども、リンゴとパイナップルは比べられないと言ったのか、マンゴーとバナナは比べられないと言ったのかよくわからないのですが、何か果物を2つ並べて、同じようにお金を入れているけれども、質が違うと比べられないということを一応言っていただいたわけでございます。
私も入札会場におりましたけれども、何と言ったかよくわからなくて、後で副首相の秘書さんに聞いたら、「いや、フランスのほうはいろいろと入札に条件をつけている」と。例えば、こういう予想できないような事態が起きたら、その費用負担はどうするかということまで細かく書いて出している。一方で、日本の企業は、条件は後で調整しましょう。ただ、タイ政府から示されている条件によれば、これこれこれぐらいの金額でしょうと、こういう形で出していたわけです。
それから、2カ月間調整しまして、多分、日本大使にとっても、円借款の担当をやっていましたOECFにとっても、一番苦しい1カ月という8月がやってまいりました。その中で、タイ政府のほうにいろいろと働きかけをして、タイ政府のほうでも、そのフランスのつけた条件というのをもう一度精査し直して、最後は、そういった条件をつけることとというのが、円借款の基本であるOECFのガイドライン上、望ましいものではないということを新聞に出しまして、閣議決定の末、フランスの企業がディスクオリファイ、失格処分になってしまいました。それで、自動的に日本の企業が上に上がって、日本の企業と価格調整の上、その年の10月に一応契約が行われまして、その後は、何とかほかのポーション、3つの地下鉄のポーションがあるんですが、日本の建設会社さんが100%受注をしているという状況に、今のところなっているようでございます。
ところが、それで日本グループとしては万々歳だというわけにはいかなくなったのが、この経済不況でございます。先ほどからご説明しましたとおり、6割は、日本がお金をこの建設費に出しているわけでございますが、4割は、タイ政府のほうで持ってきてもらわないと、日本の建設会社さんに対して支払いができない。ところが、ことしの3月だったと思いますが、タイ政府が1銭も1バーツもないという状態に陥りまして、建設がとまりました。先ほど申し上げました、一番初めに落札をした、1996年の夏に落札をした企業の工事区で、生コン代が払えないという状態がやってまいります。
タイ政府のほうは、未曾有の経済不況の中で財政危機に陥っておりますし、また、IMFとの仕切りで、財政支出を4%以上カットということが出まして、その中でこのMRTA、地下鉄プロジェクトも─要は、地下鉄をつくったからといって、外貨を稼ぐわけでもない。