当時、運輸省の鉄道局でもかなり研究の進んでおりました、上下分離論というスキームを、こういう形で生かしたわけでございます。
ただ、これは独創的なものでも何でもなくて、実はシンガポールもそうですし、香港も一部そうでございます。その上下分離というのは、ある意味で、アジアでは普通に行われていたプロジェクトでございます。ただ、その非常に大きな違いは、この建設部分について、日本の経済協力が6割入るということでございまして、シンガポール、香港等は、そういう公的な経済協力資金が入っていないということでございます。
これを持っていった結果として、タイ政府のほうでも、これでよかろうということで、すぐにこれの担当にタク・シンという副首相が任命されました。これを大々的にやっていくという方向が示されるとともに、このMRTAという公社、これはこの地下鉄をやるために、1990年に既に設立されていた公社だったんですが、当時、この公社の従業員というのが─従業員というか、半官半民なんですけれども、こちらの人が20人足らず。それの半分以上がどこかと兼任しているという状況でございまして、初めこちらの総裁とお会いしたときも、えらい寂しいところに部屋が2つぐらいしかなくて、それでやっているという。まあ、絵ばかり書いているというようなところだったわけなんですが、そちらの増員と予算増を大蔵省に組んでもらいまして、それでスケジュールを立てて、はやその次の年の4月ぐらいから、直ぐに建設の入札を始めるという話になったわけでございます。
この早い流れの中についていけなかったのは、実は、このシナリオをいろいろと書いている日本大使館でございました。タイの経済協力というのは、年次協議といって、毎年毎年、1年に1回、ことしの円借款は幾らにするという話をするわけですが、このキングの発言がある前に、その年の円借款額というのは決められてしまっておりまして、もう増額できないような状況になっていました。一方で、先進国での、経済協力国の取り決めがあって、そういった借款に絡む入札がある場合は、まあ、当然、普通は入札があるわけですけれども、入札の始まる前までに、その借款供与の閣議決定を行っておかないといけない。つまり、いわば日本企業がとるということがわかったら、お金をあげる、お金を貸すということを避けるために、入札の準備が始まる前に、先に供与の決定、これは閣議決定で、両方がE/N(交換公文)を結んで行われるような形になるんですけれども、そういう決まりがあって、これがその入札スケジュールと完全にバッティングしてしまったわけでございます。
そこを何とか外務省に拝み倒して、また、若干入札のスケジュールをおくらせて、結果として、その分を何とか日本政府のほうで面倒見てもらったということなのでございます。タイ側が日本に経済協力をお願いしてきた理由は、ひとえに、自分たちではお金がない。BOT方式でやろうとしたけれども、BOT方式でついてこれない。したがって、あるところは公的ポーションでやらないといけないけれども、自分たちはお金がないので、日本の経済協力、こういう図式でございます。
一方で、日本側の動機というところでございます。中学校の教科書には、中学生に対してどう説明しているかというと、この経済協力というのは、安保論をはじめとして、日本がアジアの中で置かれている状況の中で、この経済協力というのは非常に重要な外交政策であるとなっているわけでございますが、そのときの一つの動機というのは、いろんな組織がこれに絡みますので、それぞれあるわけです。
まず、外務省の動機というのは、非常に端的にあらわれております。それまで大体タイ国というのは、1,000億円強の円借款を注ぎ込んでいたわけでございますが、為替相場が非常に日本円にとって有利な状況に働く中で、タイ政府としては、毎年の返済額ががーんと膨れ上がる形になっておりまして、日本高利貸し論というのが、タイ政府の中でございました。つまり、例えばOECFの金利であれば、2.8%とか、2.7%とかということで、3年や5年の据置期間を置いて35年というのは、そういうスキームでやっていくわけで、非常にタイ国内の当時の金利が10%を超えておりますので、その中では低利資金を調達してもらえるわけでございます。為替の風力によって、実質金利を計算してみますと、返済時期において、17%から18%の金利がかかっているという計算までできる状況になっておりまして、日本からお金を借りると、後で円が強くなって、為替損が発生して、大変なことになるという状況であったわけでございます。
一方で、タイ側は非常に経済的に自信をつけておりましたので、もう日本からの経済協力は勘弁してくれということで、1995年度におけるタイへの円借款が700億を切るという状態になったわけでございます。そういうことでは、タイの大使館としては、組織としてもつまらないし、また、もうちょっと需要はないんでしょうかということを厳しくタイ政府のほうに言っていくわけでございます。こちらは査定する側ですから、タイ政府に直接、融資を増やしなさいとはなかなか言えないわけでございます。
一方で、ここはほんとうのことなんですが、タイは返済時期をおくらせたこともなければ、デフォルトをやったこともない、極めて優秀な円借款譲与国だったわけでございます。これがお隣のお隣の大きな国にいったりとか、もしくはある島国でありますとか、それから、その2年後にゲリラが襲ってきた国とかにいきますと、これはなかなか返ってこないわけでございます。返ってこない分を、また、今度は無償で入れたりとか、そういうスキームで整理しないといけない経済協力案件というのは、多々あるわけでございます。それに対してタイは、お金をつぎ込んでそのプロジェクトができ上がってくるかどうかは別にして、為替で厳