マレーシアは、当調査を通じてアジア通貨危機以後海運保護政策が唯一強化された国であったと思われる。同国の緊急やむない外資管理規制の一環として商社を通じた自国船積み誘導政策は少なくとも当面に限られた保護政策として理解し、早晩撤回されることを強く期待する。国営海運企業MISCは政府の梃入れで世界に飛躍しうる能力をもって益々発展してゆく途上にある。海運助成政策はこれまではやむを得ないとの国際場裏での甘受を得てきたものと理解されるが、MISCが大きく発展した現段階では、前述の商社を介した海運保護政策と共に逐次撤回して行くことが望まれる。同国には我が国からODA面で海運協力すべき措置は今回の調査に限って言えば少ない。しかしながら、WTOなど国際場裏での望ましい海運政策を模索し、調和、協調する上で、マレーシアは今後益々重要な国になると思料される。
インドネシア及びタイの2国については、海運育成発展に向けて海運助成をしてでも何とか自国海運の育成を図りたいと苦悩されている事態に直面し、未熟な海運産業を抱える一方で、国際場裏で進められる海運市場自由化の動きに両国の海運当局の判断として今や引き返せないとのジレンマに立って当惑している様子であった。相手側の立場に立てば共感できる面でもあった。世界有数の海運国としての我が国としては、我が国海運が将来アジア諸国海運の発展と共にあるべきアジア海運振興協力の施策をより一層強化すべきことも痛感された。
タイのRCL社長がいみじくも言及されたが、「アジア海運は、政治も行政も商業海運も新たに生まれ変わらなければならない。外航海運は自国でリスクある場合には他国の海運で代替して行くことすら考えられるべきだ。内航海運は外国が侵略して破壊してはならない部門である。アジア海運は着実に内航海運の発展から歩を進めるべきだ。」とのコメントは貴重なものと受け止められる。
当面考えられる施策として、インドネシア及びタイの両国に対しては、当該両国が強く要望している「島嶼海運(インドネシア)・沿岸海運(内航・内陸水運、タイ)の整備開発両案件」(外航海運とも競合関係にない)への全面的協力が挙げられる。
また、外航面では、船員教育レベル向上を目指すSTCW条約に対応して、インドネシアには同国の船員を国際海運市場に送り出す政策があり、これには船員教育・訓練システムの国際基準(STCW条約)対応の施策が必要であり、これに対し我が国からのODA協力が進んでいるがより一層の協力の強化施策が考えられる。