日本財団 図書館


1 はじめに

 

 

国際海事機関(IMO)は、タンカーの重油流出事故の再発を防止するために、船齢25年を超える載荷重量が2万トン以上のタンカーは、二重船殻(ダブルハル)に改造するか、ハイドロスタティック・バランス・ローディング(HBL方式)、あるいは規則上必要とされる防護的な配置の専用バラスト・タンク方式を採用していなければならないことを義務づけた(マルポール条約)。このため、1970年代はじめに建造された多数のタンカーが解体の対象として考えられ、1990年代後半から解撤のピークがくると考えられていた。

しかし、1997年から1998年前半までのタンカー船主の対応によると、スポット用船の運賃が上昇するなど海運市況が比較的良いため、高齢化したタンカーも延命策を適用し、更に30才まで運行に使用する傾向がある。いずれにしても、2005年までには多くのタンカーが25から30才に達し、規則上は問題なくても、物理的な鋼材の腐食などによって、現実的な運行に支障がでて、安全上からも解体せざるを得なくなることが予想され、2000年から2003年頃に解撤のピークがくるものと予想されている。

このような解撤需要に対して、エジプト共和国スエズ運河庁の関連会社であるスエズシップヤードは老朽タンカーの解撤に強い関心を示し、今日まで独自の研究を続けてきた。その結果、造船のシェアーの50%を有する日本で解撤事業の採算性の調査を依頼することが最良であると考え、海外運輸協力協会に事業化調査に関する協力を要請した。要請を受けた同協会は運輸協力センター事業として日本財団補助事業で行っている「開発途上国における運輸インフラ近代化計画支援事業」で調査を実施することを決定した。

スエズ運河庁から海外運輸協力協会へ依頼のあった「老朽船の解撤事業の採算性について」の調査を終了し、実施計画書を作成した。同プロジェクトはキャッシュフロー予測では容易ではないが事業の採算性はあると判断された。この結果について、スエズ運河庁への報告を兼ねて同庁でセミナーが開催された。セミナーでは、Suez Odense Marine Services (SOMS)のWael S. Kaddour会長が挨拶を行い、続いて井上年行(復建調査設計(株))が「プロジェクトのコンポーネントプラント、特に海洋環境汚染に配慮したプロジェクトにしなければならない理由、あるいは伸鉄工場の必要性等」を発表した。

セミナーでのハイライトは、スエズ運河局の招待で行われた解撤事業に関する講演であった。講演者の解撤事業に関する30年以上の経験に基づく発表は、同庁の局長を含む50名以上の出席者を圧倒した。発表のあとのフロアーディスカッションでも、沢山の質問が出され、正確で的確な解答は今後の同プロジェクトの実施にむけて極めて有益であった。同講漬の概要は英文の実施計画書とともに付録として添付する。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION