CMI規則というのは、傭船契約を前提としているのではなく、個品運送契約による船荷証券の電子化を適用対象としているのである。個品運送は、荷主の数、貨物の種類・数量、取扱件数等が多いので、運送契約の締結、ターミナルにおける受渡、書類作などの業務・手続を正確・迅速に処理することが要求される。やがて、現行の信用状や為替手形に相当する電子的決済手段が実用化されるようになると、電子式船荷証券(あるいは電子式船積書類)と組み合わせた、新しい電子貿易・決済システムが構築されることになろう。CMI規則は、このような電子商取引に使用される船荷証券に適用されることを前提としているのである。船荷証券の裏書譲渡によって海上運送中に転売されるのは、オイルとか鉄鉱石のようなバルクカーゴの取引にみられるのであるから、流通性船荷証券の電子化がもっぱらこのような貨物の傭船契約に必要であるというのは如何か。これらの取扱業者は極めて限定されており、しかも、特定の業者間で転売が行われるのである。また、1件あたりの数量・金額は大きいが、運送貨物は1種類の場合が多いので、個品運送の場合に比べると、ドキュメンテーション、業務処理、手続はそれほど繁雑なものではない。したがって、あまり電子化の必要性が感じられないのではなかろうか。
コンテナ船による個品運送の場合には、貨物の海上運送時間が船舶の高速化により短縮されているので、海上運送中の個品貨物が、船荷証券の裏書譲渡によって転々と転売されるといった問題は出てこなくなっている。そうなると、売買契約上の売主と買主の関係、あるいは運送人や銀行が間に入ってくる場合、船荷証券の電子化によって、各当事者の権利義務関係にどのような問題が起きるのであろうか。現行法の下で、電子式船荷証券を使用した場合に、これらの問題はどうなるのであろうか。このように議論の焦点を絞っていく必要がある。そういう意味で、電子式船荷証券とか電子商取引の問題を検討する場合、negotiabilityというものが何か変わってきたのではないかという感じがする。
既に述べたことの繰り返しになるが、従来のnegotiabilityというのは、例えば、"to order、"とか"to bearer"といった特定の発行形式の船荷証券に限定されている。有価証券という形で船荷証券をとらえるとかなり広い概念となってくる。英米の場合、記名式船荷証券(Straight B/L)は流通性を持たないので、法律上の流通性船荷証券(negotiable Bills of Lading)から外されている。売買契約上、売主が船積みした物品について処分権(the right of disposal)の留保を行う場合に使用するのは、売主またはその代理人の指図人(to the order of the seller or his agent)に引渡される形式の船荷証券である。また、買主宛てに手形を振出し、手形の引受・支払を確保するために、為替手形と船荷証券を一緒に買主に送付した場合、買主は為替手形の引受または支払を行わないときは、船荷証券を返戻しなければならないのであり、買主が船荷証券を不法に所持しても、所有権は移転しない。このような効果を、電子式船荷証券と電子式為替手形に期待することは難しいのであろうか。
(以上 朝岡委員長)