(4) 売主による処分権留保
英国物品売買法(§19)は次の規定を設けている。すなわち、売主は、特定物の売買、または不特定物の売買契約において後日目的物が契約に充当されるとき、契約の条件または充当の条件により、当該条件が成就されるまで、物品の処分権(the right of disposal )を留保することができる。この場合、物品が買主に引渡されても、あるいは買主へ運送するために運送人その他の受寄者に引渡されても、売主が課した条件が成就するまでは、当該物品の所有権は買主に移転しない(第1項)。
また、物品が船積みされ、かつ船荷証券によって、売主またはその代理人の指図人(to the order of the seller or his agent)に引渡されることになっている場合、売主は、原則として、処分権を留保したものとみなされる(第2項)。
売主が買主宛に為替手形を振出し、その引受・支払を確保するために、為替手形と船荷証券を一緒に買主に送付した場合、買主は、為替手形の引受または支払を行わないときは、船荷証券を売主に返却しなければならない。たとえ買主が船荷証券を不法に所持しても、所有権は移転しない(第3項)。
上記(4)で述べた買主の支払不履行の場合を考えるとき、売主は、契約の条件または充当の条件として、物品の処分権を留保することが望ましいけれども、通常は、為替手形と船荷証券を一緒に提供することによって、処分権留保を行う。この場合、船荷証券の発行形式は、売主またはその代理人の指図人(to the order of the seller or his agent)でなければならないのである。ここで、船荷証券(権原証券)の概念について、英国、米国および日本の間にみられる相違点を見てみよう。
3. 船荷証券(権原証券)の概念の相違について
(1) 英国における船荷証券の概念
イ. コモン・ロー上の概念と制定法上の概念
船荷証券は権原証券(Document of Title to Goods)であると言われる。"Document of Title to Goods"は、コモン・ロー上(狭義)と制定法上(広義)の2つの意味で使用されている。
コモン・ロー上、判例に基づく明確な定義はないが、"Document of Title to Goods"とは、物品を表彰する証券で、その譲渡が物品の推定的占有(the constructive possession of goods)の移転として機能し、また、物品の所有権(the property in the goods)