買主は代金支払の準備を行い、進んで支払うときに、これと引換えに物品引渡をうけることができるのである。ここでいう物品引渡は、物品の占有移転を意味する。同時履行条件には、物品の占有移転と引換えに行われる代金支払と、物品(の権利)を表彰する書類の占有移転と引換え行われる代金支払とがある。前者を現実的引渡、後者を象徴的引渡と呼んでいる。FOB契約は現実的引渡条件、そしてCIF契約は象徴的引渡条件である。前払い・後払いの特約があるときは、これに従って代金の支払が行われる。売主は、物品の所有権が移転したとき、代金請求権を取得する。
(3) 代金の支払を受けない売主の権利
例えば、FOB契約で、売主は物品を船積みし、無条件で契約に充当したとする。この場合、他に異なる合意がなければ、船積み完了により、物品の所有権は買主に移転し、また、売主は代金請求権を取得する。しかし、代金支払期日が到来したのに、買主が履行しなかった場合、売主はどのような救済を求めることができるのであろうか。英国物品売買法は、この場合の売主の救済について、対物的権利(SGA §§38〜48)と対人的権利(SGA §§49〜50)に分けて規定している。
売主に物品の占有が存続している場合、売主は対物的権利、すなわち、物品に対してa留置権(SGA §39(1)(a)および§§41〜43)、b運送差止権(SGA §39(1)(b)および§§44〜46)またはc転売権(SGA §39(1)(c)および§47〜48)を行使することができる。これに対して、物品の占有が喪失したとき、売主は、対人的権利として、1]所有権が移転し、代金支払いがない場合には、代金支払請求訴訟(SGA §49)、2]受領及び支払を拒絶された場合には、損害賠償請求訴訟(SGA §50)を起こすことが認められる。
買主が支払不能のために代金が支払われない場合、たとえ裁判で勝ったところで、実際に代金の支払を期待することはできない。このような場合を考えると、代金の支払が行われるまで、何らかの形で物品の処分権を留保することが売主にとって望ましいと考えられる。