現行の貿易慣習は、19世紀における生成・発展の過程で受けた英国商人の影響により、英米の商慣習法および物品売買法にみられる諸原則、考え方が背後に存在する。そこで、一応、英米の物品売買法に基づいて、物品売買契約の概要を説明し、契約の履行・不履行の場合における船荷証券の機能を理解したうえで、現在、流通性船荷証券の概念が、必ずしも国際的に統一されていないので、英国、米国および日本の間にみられる相違点を簡単に述べる。その後で、流通性書類の要件、EDI化への取組みの現状および電子式船荷証券に関するCMI規則について説明する。
2. 物品売買契約の基本原則
(1) 物品の所有権移転の原則
英国物品売買法(Sale of Goods Act; SGA)は、ヨーロッパ大陸から伝わってきた商慣習法および17世紀初頭からの物品売買に関する判例に基づいて、19世紀末に制定された法律である(1893年制定、1979年に改正)。この法律の起草者は、1882年英国為替手形法、1889年英国問屋法、1906年英国海上保険法などを起草した著名な法律家である。海上物品運送法とともに、これらの制定法は、英国・英連邦諸国のみならず貿易取引関係をとおして、多くの国に影響を及ぼしており、貿易取引を理解するために重要である。
英国物品売買法は、「物品の売買契約とは、売主が、金銭による約因(consideration)に対して、買主に物品の所有権の移転する、または移転することに合意する契約」であるという定義を規定している(SGA §2)。この定義には、売買(即時売買)と売買の合意(将来売買)が含まれている。米国統一商法典にも、同様の定義が規定されている(UCC §2-106)。
そこで、売買契約の効力として、所有権移転、危険移転および占有移転(引渡)という3つの移転問題が生ずる。SGAには、物品の所有権移転について、二大原則が規定されている。第1は、特定を生ずるまでは、物品の所有権は移転しえないという原則(§16)と、特定物(specific goods)または確定物(acsertained goods)の所有権の移転は、当事者の意思によるという原則(SGA§17(1))である。そこで、まず物品の所有権移転に関する当事者の意思を確定しなければならないのであるが、そのため