(6) その他
a. 暗号規制:国家安全上の政策からの要請対応。諸外国からの規制対応など
b. 個人データ:個人データ保護の問題(OECDなどの規制の動きへの対応)
c. 守秘義務:取引の存在、内容の第三者への漏洩防止
d. 外国リスク:諸外国の法制度、運用規制を背景とした民間取引への介入対応
8. むすび
これまで述べたように、貿易金融EDI化実現のために必要とされる環境整備の課題が山積している。しかしながら、物流に深く関わっている貿易書類の取扱いのみが自動化の流れに取り残されて良い理由はない。技術の進展に伴い、より正確、安全で迅速な業務処理フロー構築への努力が惜しまれて良い理由もない。現代の輸送力の高速化、大型化に見合った新しい事務のプロセスを構築し、これに合意して利用してゆくことは時代の要請でもあり、コスト削減とリスク回避の観点からも自然の帰結と考えられる。
貿易取引の発展とともに成長してきたインコタームスや信用状による貿易金融方式や各種保険制度などいずれも、リスク仲介機能の活用により円滑且つ安全な財貨の交易を実現していく上で不可欠な仕組みであり、貿易金融の電子化のもとでも世界の交易の発展、ならびにわが国経済の維持発展のため、引続き必要であり続けるものと思料される。
銀行システムを経由せずに荷主自身のown riskで取引を行うことももちろん可能である。基本的にはリスクとコストのトレードオフの問題であり、銀行のリスク仲介機能を利用せず自社でリスクを吸収することが可能ならば、それはそれで経営合理性があるものと言えよう。しかしながらすべての企業が貿易取引リスクに対して自社の財務体力で吸収すると考えることは現実的ではないと言えよう。
因みに信用状(L/C:Letter of Credit)は銀行が発行する取消不能な支払い確約書であり、その「独立抽象性」の故に、他の権利関係とは独立して輸出貨物代金の決済を確実にするという先達の考案した素晴らしい発明である。
貿易金融EDIによる貿易関係書類の電子化という新しいシステムを展望するとき、リスクはコスト(信用状開設手数料)で回避できるという、これまで貿易関係者の間で培われてきた高度な信用仲介機能の意味をもう一度見つめ直す好機であると思料する。
はるか150億年の時を経て宇宙誕生の謎が解明されようとしている今日、「貨物」が「書類」より先に到着するという「B/Lの危機」に対し、いまだ抜本的な対策が講じられていない。
貿易金融EDI化により、現在抱えている各種リスクを回避するとともに、より低廉で安全かつ迅速な貿易関係書類の自動化の手法を確立し、わが国をはじめ世界の貿易関係者全員がメリットを享受できるような制度システムの構築と普及にむけ、貿易に係わる金融ならびに信用リスク仲介機関として引続き研鑚を積んで参りたい。
(以上 奈良委員)