(4) 告知義務とモラル・リスク
保険契約は、最大善意に基づく契約である。商法上、契約者は損害保険会社が「保険の引受の可否」を判断できる、又は「保険の料率を算出」できる重要なる事項を告知しなければならない。一般貨物の保険引受も去ることながら、保険会社の経営を左右するような特殊貨物の保険引受の場合には、保険会社が引受の可否及び料率の算出に必要とする重要なる告知事項は、インボイス/船荷証券の電子データ情報(売手/買手/貨物名/価格/梱包方法/輸送用具/輸送開始日/積込港/荷揚港)を転記した電子保険申込書を受信するだけでは不十分である。契約申込業務のEDI化に備えて、特殊貨物引受、モラル・リスクの排除、巨額・集積リスクの管理手法を検討しなければならない。
(5) 通信途絶と始期接近事故
保険契約は、契約者が保険を申し込み保険会社が引受を承諾した時点で成立する諾成契約であり、その契約の証拠として保険証券(商法上は、契約者の請求があった場合に交付を義務付けている)を発行している。保険申込業務フローがEDI化されても、契約成立までのプロセスは、従来通り契約者と損害保険会社との間で何らかの通信手段で事前交渉が繰り返されると考えるが、契約交渉が大詰めの段階に入り、損害保険会社が契約者に条件/料率をカウンター・オファーして、契約者の付保意志の確認待ちの状況であった場合、契約者が保険を付保すべく電子保険申込書をデータ伝送したが、損害保険会社のシステム・トラブルが原因で通信途絶/情報の不着・遅延を起こし、損害保険会社が引受を承諾する以前に事故《外航貨物海上保険では、予定契約(注-1)が締結されていない個別契約(注-2)の場合には、貨物の輸送が開始される前に保険を付保しなければならない。もし貨物の輸送が開始されておれば、保険会社は引受を辞退するか、保険開始前に発生した事故に対しては保険金を支払わない旨の条件付きの引受となる》が発生した場合には、契約者との間でトラブルの原因となる。このように通信途絶/情報の不着・遅延は、損害保険会社の填補責任と密接に関係しており、契約者との間でのルール作りが必要である。