(FIG.-5)
ところで、私は最近、こういうマントルプルームの火成作用に興味がありますので、一番地質時代で新しい洪水玄武岩である、北米大陸にあるコロンビアリバー洪水玄武岩の調査を致しました。調査をしたと言っても、私の同僚のアメリカ人が調査をして私はそれを実験室で色々融解実験をやりまして、どうやって出来たマグマかを調べた訳です。これは地質図ですけれど、コロンビアリバー玄武岩というのは、ワシントン州、オレゴン州、アイダホ州にまたがって、広大な地域に出来ております。最近の調査では、コロンビアリバー洪水玄武岩というのは、現在活動中のイエローストーン・ホットスポットが、約1500万年前頃に造った、イエローストーン・ホットスポットのマントルプルームの最初期の火成活動であると考えられています。
(FIG.-6)
この図は私が実験に基づいて作った、コロンビアリバー洪水玄武岩の生成モデルです。従来マントルプルームというのは、非常に高温のマントル物質が、地球の深部から上がって来て、そのために溶けて大規模な玄武岩を造るという風に信じられてきました。よくよく、これを調べて見ますと、実は溶けているのは、マントルを造っている普通のマントル物質(これはペリドタイト(peridotite)と呼んでいますが)ペリドタイトが溶けているのではなくて、10億年以上前に地球の内部に沈み込んだ、海洋底地殻(Oceanic crust)が主に溶けていることが判りました。海洋底地殻は、元々玄武岩という物質でできていますが、地球の内部でも、もっと密度の高いエクロジャイト(eclogite)という岩石に変ります。そのエクロジャイトがマントルプルームの中に含まれていて、それが選択的に溶けて、こういう洪水玄武岩を造ったということが実験的に示された訳です。
(FIG.-7)
その様な事実が、どうして分かったかという事を少し説明します。私の実験室で、高温・高圧実験によって決めたマントルの融解曲線、これは、マントルのペリドタイトが溶ける温度範囲を示しています。リキダス(液相線)まで、温度が上昇すると、マントルは全部液体になってしまいます。これは地球形成時のマグマオーシャンの温度に相当します。次にソリダスは、マントルが溶け始める温度です。地球内部に沈み込んだ、かつての海洋底地殻は、エクロジャイトに変っていますが、そのエクロジャイトが、溶け始める温度と溶け終わる温度もこの図には示されています。エクロジャイトの方が、ペリドタイトに較べて、明らかに低い温度で溶ける事が重要です。
従来の考え方ですと、大量のマグマを造るためには、ペリドタイトを溶かさなければいけませんので、非常に高温のマントルプルームが必要だと考えられていました。ところが、私の研究でコロンビアリバー玄武岩をよく調べて見ると、実は、そんな温度で融解が行ったのではなくて、もっと低い温度で、エクロジャイトだけが選択的に大量に融けたという事が判明しました。そこで、マントルプルームに対する、従来の考え方に対して、非常に重大な疑問が生じて来まして、本当にこんな考え方が、他のマントルプルームでも成り立つのだろうか?と言う事を調べる必要が出て来ました。そこで、私達は次にハワイの研究を始めた訳です。
(FIG.-8)
ハワイの話を今日いたしますが、今日は私達の研究の全体像を理解して頂きたいので、実験室の話をもう少し続けさせて頂きます。こういうマントルプルームのダイナミクスを理解する為には、地球の内部で沈み込んだエクロジャイト、あるいはペリドタイトが一体どういう鉱物で、どういう密度かと、あるいは、深さによってどういう縮み方をするかという事を調べる必要があります。そこで、この図にある様なシンクロトロンから放射される強力なX線を透過することのできる高圧装置を使用して実験を行います。
(FIG.-9)
この図は私達の実験結果の一例です。横軸が圧力になっていますが、図の右端が大体地球の深さ500kmに対応します。