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深海地球ドリリング計画の目指すもの

 

海洋科学技術センター理事

堀田宏

 

これまでの技術的制約を越える地球深部探査船(ライザー掘削船)を開発し、米国が運用責任機関となる従来型掘削船との二船が相互に補完しあう統合国際深海掘削計画(I0DP)を推進することによって、以下のような科学目標を実現し、地球と生命についての知識を時間的にも空間的にも飛躍的に拡大させることを「深海地球ドリリング計画」の目的とします。

 

(1) 急激な地球環境変動の復元と変動メカニズム

一万年より以前には数年〜数十年で数℃以上も気温が上昇する現象が繰り返されてきました。特に地球軌道要素の状態が現在とよく似ている約40万年前の間氷期には現在よりも暖かい気候モードが存在し、その時は西南極大陸氷床が大崩壊を起こした可能性があると指摘されています。このような気候ジャンプのメカニズムを解明するためには、堆積速度の速い縁海や大陸周辺部での掘削が必要です。そのような海域には炭化水素の存在や脆い地層が従来の方法による掘削を妨げていました。このため、ライザー掘削が期待されているのです。

堆積物コアを分析することによって氷床コアなどからは得られない表層及び底層の水温、海洋大循環の強さ、生物生産力、氷床の崩壊、海面高さの変動などの情報が得られます。これは、氷期や間氷期に繰り返された急激な気候変動の原因解明に寄与するものです。二船体制での分担によって全球的な気候復元が効率的に達成できるのです。

 

(2) 地殻変動モデリングの精密化及び地殻変動観測網の構築

プレート間地震の震源である地震発生ゾーン(プレート滑り面)の岩石や流体の物性や状態についてのデータが現在のところありません。従来の方法では、断層等により地層が不安定で地震発生ゾーンに到達できず、ライザー掘削が必要です。ライザー掘削では長期間安定な掘削孔が得られ、さまざまな長期観測手法が提案されています。重要なポイントで掘削により実際の状態を確認することによって、広域にわたる地殻構造モデルの改善が期待できます。

 

(3) 地球深部ダイナミクス研究

地殻とマントルの境界は、地震学的に得られるモホ面と一致するものと仮定してさまざまな地球モデルが構築されていますが、その真偽を確かめることが迫られています。従来の方法では地殻の上部約2kmにしか達していません。ライザー掘削により高速拡大軸と低速拡大軸での地殻の全断面及びモホ面を貫く連続試料が得られれば、地球モデルが大幅に改良されるのです。

 

 

 

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