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よく考えてみると、情報の中に本当に感動的なものとか、すごい大発見、すごい驚きというものはあまりないのです。これはなぜかといえば、この情報はすべてだれかが作ったものです。それを流して我々に来ると、完全に間接的、二次的、我々には受け身的な情報です。現在の社会は情報だけを頼っても十分に生きられる。でも僕は人間という動物はそういうふうに情報を受けたり、処理したり、吐き出したりする動物ではないと思う。人間の本来の姿は、絶えず自分の周りを探検して、絶えず新しい情報を生で探す、生の情報を持っている。普通の日常生活の中では生の情報はないのです。これはいろいろな社会的、心理的な問題を起こしていると思う。

でも、近くに田んぼとかあぜ道、小さな雑木林があれば、自分のうちとか働いているすぐそばにあるからいつでも接触できるのです。そして、その自然の中に入っていけます。

例えば、小さな花が咲いてその花を見て、その花のおしべとめしべはどうなっているとか。今度は昆虫が飛んでくると、おしべとめしべがどういうふうに作動して昆虫に花粉をつけるとか、アキアカネがいっぱい飛んでいると、虫採り網でアキアカネを1匹採って、指で挟んで、その体をよく見ると大きい目、アキアカネと思ったのに実はナツアカネとか、雄と雌がどういうふうに違うのかとか、トンボが一体どのように、空を飛びながら交尾をするのか、それはどうやってできるのか…。

そういう小さな発見とか驚きがすぐそばにあるのです。そういう自然に日常的に接触できる。我々にとって非常に大きな意味があると思うのです。公益的な価値がすごく高いと思うのです。

これはもちろん大人でも子どもでも、学校教育に使えるし、生涯教育にも使える。または完全に独学で。僕はほとんど一日中ワープロを打っていますが、3時か4時頃になって30分あれば家を出て散歩して、田んぼと雑木林を通ることができるのです。毎回通ると少し違います。咲いている花が違う。鳴いている虫が違う。それがすごくいい気分転換になるし、僕の生活に潤いを与える。

ですから、これこそ一番多くの人が自然に接触する、自然を日常生活の中に取り入れる仕組みとか方法ではないかと思うのです。もちろん、一番理想的なのは自分の手で自然をつくったり、田んぼや雑木林の管理を手伝ったりすることです。でも、それができる人は全体の1割とか、そんなにいないと思うのです。だったら、どのように大勢の人間が自然と接触するか。やはり教育なり趣味なり、つまり自然を見る、その自然の中で発見や驚きを手に入れて、日常生活が潤うと思うのです。

 

【小倉】大変よいお話でした。身近な自然に発見、驚き、感動を覚えることが大変重要ではないか。それは大人でも子どもでもいい。特に子どもたちにはそういう機会がなかなかないので、驚き、感動を与える機会をやはり大人が与えないといけないのか。きっかけを与えるのは大人、我々の役割かもしれません。

今までいくつかの提言をいただきました。会場の方々からご意見、ご発言がありましたらどうぞ。

 

【会場1]】今、こういう運動が盛んになってきていることが非常にうれしいです。

僕は第1次安保世代のはしくれの年代で、大学を出て、ものすごい公害の中で働いたけれど、心は非常に痛めていたわけです。何とか川をきれいにしたり、いろいろなことをしないといけないと思っています。子どもの頃、そういうところで生活をしたこともあるものですから。

我々とその子どもの年代は、自然のいろいろなものに対して、何となく距離を置いてしまう傾向があります。公害がひどかった頃は、環境保全に取り組んだり、データを取ったりすると「おまえは会社をつぶす気か」とか言われたものです。それがオープンになってきて、涙が出るほどうれしい。

皆さん、頑張ってください。非常に参考になりました。ありがとうございました。

 

【会場2]】私は20年間、国際捕鯨委員会で日本代表団の通訳をやってきました。

 

 

 

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