こういう科学的な実験データを組み合わせることによって、経験的なことから始まったことに対する裏づけといいますか、応援をすることができる。それが私たち専門家の役割ではないかと思っています。
発生源対策では、できるだけ川に流れ込む前に原点で、あるいは水路で汚れを取る、ということが重要だということです。
■陸→海:汚染物質削減3] 自浄作用の活用
本来、川というのは「二尺流れれば水清し」というように、自浄作用をもっています。この自浄作用を有効に活用して、流れていくに従って自然に汚れを削減する、という考え方が出てきました。これは川を自然型の川に変えていくという考え方で、むしろヨーロッパを中心にして広まってきた考え方です。
河川というのは本来、汚れたものを上から下に運ぶという機能と同時に、いろいろな生態系―礫があれば、その周りに付着性の微生物がつく、あるいは水草が繁茂する、底生動物が生息する―が成り立った河川を水が流れることによって、自然に窒素やリンが取られ、有機物が分解されて、きれいになって下流に出ていくという機能があるわけです。
これをコンクリート張りにして、生物、魚がすめない環境にしてしまうと、水が単に上から下に流れる水路になってしまう。ですから、こういう自浄作用、物質循環がうまく働くような川をつくっていくことが大事だろうと思います。
これはドイツの事例で、U字フューム管でつくられていた農業用水路を改修し、5年経ったところです。そこにもともとあった木を植え、岸辺に植生が出現する。しかも、段差(落差)が出てきて、瀬と淵ができ、魚がすめる。生物が生息できるような、自然の植生に近い形が戻ってきた。
このように、積極的に自浄作用を強化するようなことが必要です。
これは東京の日野市の事例です。程久保川という、浅川に入る直前の川で、コンクリート三面張りです。直線的に浅川に合流していた流れを、広大な河川敷ヘグッと曲げて、ワンドをつくりました。写真はつくったばかりであまり草も繁茂していませんが、今では自然に近い川ができて、魚の遡上も多く見られるようになりました。
こういうちょっとした対策で、川が流れるに従って水が自然にきれいになる、ということがわかっています。
水は川を通って、最後は海に行きます。海には広大な干潟が広がっていました。現在、自然の干潟は東京湾では非常に少なくなってきました。干潟は天然の水質浄化役で、CODの除去が処理場並みということが、いろいろな科学的な調査からわかってきました。
そこで、私たちも東京湾で、干潟に生息するアサリがどのような機能を持っているか、調査しました。アサリというのは海水をろ過し、ろ過する過程で消化管にひっかかる植物プランクトンをえさにして、成長しています。その海水ろ過量が1時間に1個体1lで、採餌のできない時間が1日に約5時間ということが観察の結果わかりました。現地での干潟の現存量がある程度わかっており、このような仮定でアサリの浄化機能を見積もってみますと、実に多くの浄化をしていることがわかります。
毎日東京湾に入ってくる有機物(炭素)の約7%、窒素ですと約0.9%を、アサリが取り込んで浄化をしてくれていることが推定されます。昔の干潟はもっと広がっていましたし、有機物濃度も低かったので、かつては流入負荷量(炭素)の約8割、窒素ですと約1割を浄化してくれたという、非常に大きな機能を果たしてくれていたことが推定されます。
■自然のサービス
話題を変えますと、先程「自然がタダでサービスをしてくれる」ということを言いました。そういう考え方が世界的に見直されてきました。これは「ネイチャーズ・サービス(自然のサービス)」、自然はタダでサービスをしてくれるのだ、ということです。
これは、アメリカのコスタンザという環境経済学者が、世界の生態系のサービスと機能を17のカテゴリーに分けて、それぞれどのくらいの価値を持っているか見積もったものです。
結論的に言いますと、1年間に33兆ドル(当時の世界のGNPが18兆ドルなので、1.8倍の価値をもつ)、1ドル240円とすると、7920兆円くらいのサービスを毎年タダでしていると主張しています。