■陸→海:汚染物質削減1] 森林の保全
まず、森林の役割です。水源の涵養保安林ということで、柳沼さんが話されました。これをもう少し科学的に見てみます。立派な森林があることによって、水量がコンスタントに維持される。水量をコントロールする能力があるという話です。
これはアメリカの事例です。ある荒れ地に木を植えます。荒れ地に雨が降りますと、そこから出ていく川の水量は急激に増加し、雨がやむにしたがって急激に減少してきます。ところが、植林をして十数年経つと壮齢林ができます。そうすると、同じ強さの雨が山に降ったとき、川から出ていく水の量はほとんど変化しません。やや増加しますが、常に一定の水を下流にずっと流し続けるということです。まさに、森林があることによって水量を常に一定に保ってくれる。逆に、こういう森林があるところで森を切れば、このような流出パターンになってしまう。
森があることによって、流量を常に一定に流し続けてくれる。それが、ひとつの大きな役割ではないかと思います。
もうひとつは、森があることによって、水質を良好に保ってくれる。そういう事例もあります。
これもやはりアメリカの事例です。この森の流域、自然のままの状態から出ていく、渓流水のカルシウムイオン濃度、カリウムイオン濃度、硝酸イオン濃度です。例えば、硝酸イオン濃度で説明をします。森があるときには、多少のばらつきはありますが、ほぼ一定に保たれています。「集水域6」は流域の森を皆伐してしまった事例です。森を伐採してしまうと、流出水量が約3〜4割増加すると同時に、硝酸イオンが伐採数か月後から急激に増加します。今まで木があることによって養分として吸われていた窒素が、木がなくなることによって流出してしまうわけです。そうすると、この伐採された下流のところに、今までこちらの流域では見られなかったような水草が繁茂する。いわゆる富栄養化現象が起こってきます。
立派な森は、流量だけではなく、水質をも非常に良好に保ってくれる。そういう役割を持つということが明確に示されています。
次は水田の役割です。これはケビンさん、宇根さんがお話をされました。
その水田の役割をもう少し解説しますと、水田には水を通しにくい層があり、大雨が降ったときにここに雨水を蓄えることができる。ですから、都市近郊に広がっていた水田が、都市への洪水を防いでくれた。洪水の調節作用があった。さらに、コンクリートの壁ではありませんので、水はゆっくり浸透する。地下水に水を供給してくれるので、水循環をコントロールしてくれる役割がある。
もうひとつは、水質をもコントロールしてくれます。例えば、余分な肥料が入りますと、アンモニア、亜硝酸、硝酸という形になります。それが、下の方の還元層で、いわゆる脱窒作用によって、無害な窒素ガスに変えて大気中に除いてくれる。水田があることによって、余分な窒素を除いてくれる。
そういう水量の調節作用、水循環を調節してくれる機能、さらに、水質をも良好にしてくれる作用があります。それが、里山、雑木林、林、森林、水田等の機能です。
先程「タダではない」という話がありましたが、農水省でこういうことを見積もっています。農用地及び森林の持つ公益的な機能、これは55年度のデータです。いろいろなサービスをタダでしていてくれる。水資源の涵養、土砂の流出の防止、土壌の崩壊の防止、浄化、保健休養、鳥獣保護、酸素の供給、大気の浄化。それらを合計しますと、約37兆円の公益的な価値を毎年我々に与えてくれる。
もし仮にこういうものがないとすれば、農地、森林がなくなれば、これだけ余分にお金を出資しなくてはいけない。そういう経済的な価値に自然を換算することはいろいろと問題もありますが、ある意味では非常にわかりやすい。それだけの価値をタダで我々にサービスをしてくれる。そういう機能を評価しないといけないでしょう。経済的な価値、文化的な価値を見直さないといけない、ということです。
森林、農地の保全には、大変意味があるのです。