ダムに反対するというのがこの程の運動の基本になると思うのですが、やはり何がしかの自然を一部犠牲にして、抜本的にそういったところを解決しうるような対案も出していかないと、なかなか物事は解決していかないのではないかと思うのですが、そういうことについてはいかがでしょう。
酒井さん、いかがでしょうか。
【片寄】すみませんが、よろしかったらどのようなことに取り組んでいらっしゃるのですか?
【会場1]】私は今、世間で評判が悪いゼネコンに勤めておりまして、リストラの話が身辺でささやかれている状態なのですが。
そういった中で、環境問題が今非常にクローズアップされていまして、建設事業の中でも環境面は非常に関心が高まっています。そういった中で、今日このようなお話をお聞きして、過去の自然保護運動ではなくて、経済活動ともう少しダイナミックに絡めて解決していかなければいけないのではないかと感じましたので、こういったお話をさせていただきました。
【片寄】ダムを倍くらい造ってと、とても景気のいい話で、昔のニューディール政策を思わせるような…。我々の世代は、例のアメリカのTVAの話から、あれに浮かれた一時期を持っている世代です。あの時代はとにかく河川総合開発計画というのが日本中の川でありました。今、話題になっている武庫川ダムなどというのは、おそらく昭和20年ごろに計画されていたのだろうと思いますが、日本中の川に全部ダムを造ろうという話があった時代がありました。今また、ダムを倍くらい造ってという話でしたが、ちょっと今の話は理解しにくいのですが、酒井さん、ご意見ありますか。
【酒井】実は今日もこの会がいろいろなところから支えられて、県の環境創造協会もこのシンポを支えていらっしゃるということで、今日は私はダムを避けて通りたかったのですが、よくぞ聞いていただきました。いよいよ本番になったような気がして喜んでいます。ありがとうございます(笑)。
実は、ダムというのを私たちはやみくもに反対するのではなく、私たちの目標とするところは、川の流れというものは源流から河口まで1つの運命共同体にあるのだと思います。水を治めることは政治の要諦です。
その中で、源流に落ちた一粒の雨粒も、高潮の問題で河口で悩んでいらっしゃる方々も、流域全体で一緒に水の問題を考えようということで、私たちはダムを反対するかわりに、総合治水というか、みんなでダムを造らなくてもいい方法を考えようではないか、ということを再三県にご提案しました。
例えば、武庫川です。武庫川の上流には千を超すため池があるのです。そのため池というのは、稲作に必要な水を確保するために、わたしたちの先祖が営々として築いたため池なのです。それが、今言いましたように、40%の転作を余儀なくされたら、池の管理をしながら米をつくるを放棄してしまって、その田んぼは猪の遊び場になってしまったのです。
結局、そのため池はやがて自然災害の元凶になり、土砂災害を起こす。ため池の堤防が切れたら、その下の集落は一挙に土砂で埋まってしまうことが予測されます。行政用語では「老ため」といいますが、「老朽ため池」といいます。毎年6月になったら、「危険防止のためにため池の管理をしなさい」というお達しが来るのです。しかし、ため池を管理して水をためても、米をつくらないのだったらしようがないではないか、ということで放置された池が、千いくつかある内のおそらく半分以上がお荷物になっているのではないかと思います。
それは米をつくるという経済行為のために必要なため池なのですが、やがては災害の元凶になるため池だから、1つの方法として、ダムをつくる代わりに、千いくらもあるため池を洪水調節に役立つようにしたらどうなのか、という代案を提案しました。