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私たちは「宇宙船地球号」という船に乗っているわけです。そこで人間が技術的にできるからといって、10のことをやりきってどうするのですか。3を命のために残すということを考えないといけない。この空港のことにしてもトンネルのことにしても、あらゆることが10のことを10やってしまっているのではないかと思うのです。ですから、3の振り返るゆとりを漁師から教えられたことを、やはりどこかで実現していきたいと思っています。

 

もうひとつ、耳の痛い質問が来ています。

「この大阪湾の漁業を見ていますと、どこが環境にやさしいねん。自分たちだけ魚を好き放題とってきて、漁業補償はぶったくって、ゴミはポイ捨てしていて行儀も悪い。これで環境にやさしい漁業ではないのではないか?」

 

彼らは海の上にいるだけに、非常に今の時代の人間の本性をそのまま露出しています。ですから、そのように見えると思いますが、世の中の皆さんと同じことをやっているわけです。それが非常に素直にやるだけに顕在化するのです。ゴミをポイ捨てします。これが自分の住まいにしたら汚れるから片づけます。そんなことはしません。

でも、この神戸、明石、大阪の奥部くらいは、ゴミをポイ捨てしてもそこにたまっていない。北風が吹いて、南へ南へ流れていきます。ですから、これから冬の季節風が吹きだしますと、泉南から友ヶ島、由良のあたり、あのあたりは海岸から何メートルも発砲スチロールの山になります。

この間調べにいったら、ソフトボールやサッカーボールやらたくさんあります。これは河川敷公園で遊んでいたものが転がって、流れていっているわけです。だから、「天に唾する」と言いますが、あれは顔に落ちないかぎりは気がつかないのです。どこかよそへ飛んでいったら、だれも痛い目にあいませんから、気がつかない。それをそのままやってしまっているわけです。

ですから、今の日本の世相というか、個人責任というのは自分のことだけ全うしていればいいのだと。あとは公がやってくれるというような形で、それこそ10のことを10やってしまっているのです。その範囲内で言えば、日本のどこへ行っても、漁業者も企業活動をやっている人も行政の人も、同じような性質を持っているのではないかと漁業も同じですから、それが顕在化してきているのです。

このようなことは全然言い訳にも何にもならないです。でも、そのような中でもやはり漁業で飯を食べていこうという漁師たちの中に、「バックフィッシュ運動」に取り組んでいる人たちがいます。カタカナで何のことかと思いますが、とった魚の中で売り物になるのはもちろん商品価値が高いですから丁寧に扱います。でも、その網に一緒に小魚も入ってきます。これは市場に売っても売れないのです。ですから、ガサッと船の上に上がってきたゴミの山の中から魚を探すわけですが、獲物になるものを選り分ける。そして、それをいけすに生かして、残りは「終わった終わった、ゴミだ」と、また海に戻すわけです。これは陸に揚げますと、今度は処分するときに産業廃棄物ということで大変になります。保安庁もその辺は、海にあったものを海に戻すだけだからいいのではないかと認めていただいているのですが。

そうすると、さっきの小魚は選り分けている間はその辺をピンピン跳ねながら、やがて死んでしまうのです。死んだものを戻してしまうと、その命が絶えてしまいます。その小さいものといっても、今は市場価値はないけれども、栽培漁業ということで作り育てる漁業で、その稚魚をわざわざ施設を造って、タンクで培養して育てて、放流するという事業に税金を使ってやっているのです。

これでタイの子は1匹30円、ヒラメの子は50円につくのです。そういうのを大量に何千万、下手したら何億という金をかけてやっているわけです。そのようなことを片方でやっておきながら、網に一緒に入ってきたものを殺していてどうするのか。自分の商売ものを選り分ける前に、ほんの一呼吸、「1、2、3」と、3匹だけそういう目についたものを海に帰してやれと。残りは自分の商売にかかる。ほんの数秒の勝負です。それを網を揚げた瞬間にやるのです。何でもないことです。

でも、それをやれば1回に3匹、1日に5回、網を引きます。年間200日行きます。そういう船が500隻います。これを積み重ねると、1つの栽培センターが生産する稚魚の量と同じになるのです。だから、これはほんのちょっとしたきっかけをつかめば、それだけの機能ができる。それをもっと上がった稚魚を全部生かすという方法を工夫してやればもっと効果があがるわけです。そういうことに取り組んでいこうという漁師も、このどうしようもないところにもいるわけです。

 

 

 

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