シャピロさんからご質問がありましたが、自然災害のとらえ方。阪神大震災など大きなものはともかくとして、日常でも嵐は来ます。この嵐は災厄かどうか?ということなのです。
先程「水は動かさないといけない」と言いましたが、大阪湾の奥のようなたまり水のところは、普段静穏なときには水の動きはほとんどないのです。たまり水になってしまいます。ところが、嵐が来ますと海の底からグワーッとかき混ざるのです。これがその海に唯一活性化をもたらす場面です。ですから、ああいう嵐が来る。この間、台風が秋に何発が来まして、大変な目にあったということがあるのですが、あれがあるおかげで海の肩こりが治るのです。
そういうときには確かにこれは自然の美しさと表現してもいいのかもしれないですね。ひとつの状態をまた新たにして、生き物に活性化を吹き込んでくれるエネルギーですから。そういう意味で考えると、穏やかなときばかり海を眺めていたら具合が悪い。荒れるのもやっぱりその自然の営みのうちなのだと、それを織り込んで考える必要があると思います。
ご質問の中に空港問題、神戸のことですから当然出てくると思っていたのですが、これもああいう空港島ができて、海の流れへの影響はどうかということで言うと、アセスメントでは周辺ごくわずかであって、大阪湾の流れに及ぼす影響は小さいと言われているのです。しかし、これは水の穏やかなときの調査結果を軸にして話されているのです。穏やかなときであれば、あの位置であればそんなに流れに影響を及ぼさないと思うのです。
でも、大雨が降って、淀川から大量の出水があるときに、大阪湾がどうダイナミックに動くかということで言えば、あれは障害物でしかないわけです。大嵐のときに、大阪湾の奥にたまった大量の栄養分が明石海峡にワッと持ち込まれる。それを明石海峡の潮流がこなしていくわけです。それを自然の生産力につなげていってくれるわけです。
ですから、明石海峡も豊かになれば、大阪湾の奥もきれいになる。そういう状況のときに、あの島がどういう影響を及ぼすのかということは、ほとんど吟味されていない。発生の確率が低いからということで切り捨てられる。これはちょっと手前勝手な議論ではないかと思います。私はあれは大きな障害物になり、関空の2期工事などと合わせると、大阪湾の奥の肩こり状態はますますひどくなると考えますから、あれはない方がいいと断言します。
もうひとつ、海底トンネルもついでに触れておきますと、あれは地面の底だから何でもないというのですが、底を掘れば土が出てくるのです。海の底ですから水も出てきます。青森と北海道をつないだ青函トンネルの問題はほとんど語られていませんが、あのトンネルを掘るときにくみ出された水というのが、一応沈殿処理はされているのですが、その上澄みはあのあたりの海に流れていっているわけです。それによってあの辺の昆布漁場が相当荒れてしまったということがあるわけです。
大阪湾の海底ですから軟弱地盤もあります。そういうところを固めながら掘っていけば、大量の水と一緒に泥が上がってくるわけです。その処理の仕方が果たしてあるのかと考えますと、十分なことができるとはなかなか思いがたいですね。ですから、そういうあまり大規模なことを考えていても、ちょっとやり過ぎではないかということがあります。
私がそういう批判的な意見を言い出す理由があります。実は、私は生まれ育ちが京都なのですが、明石の漁師町へ何の因果か入り込んだのです。なぜ私がそこに引き込まれたかというと、ある若い漁師とのつきあいがあって沖へ連れていってくれたのです。船の上で網を手繰る作業を一緒に手伝わせてくれたのですが、私はせっかくの機会ですから力いっぱい頑張ったのです。漁師は手が速いですから、それに合わせようと思って一生懸命やって仕事が一段落ついたときには、もうヘトヘトになっていたのです。
それで、あえいでいるときに若い人から言われたのが、「あんた、船の上で仕事をするのに、自分の10の力を10使ってどないするんや?」と。「今、あんたが海にはまったら、船縁に上がってこられるだけの力が残っているんか?船の上での仕事は、10の力のうちの7くらいにしておきなさい。3は自分の命のために残しなさい」と、5歳下の青年に言われたのです。ですから、「ああ、なるほどな。こういうことで漁師というのは自然とのつきあいを知っているんだな」と教えられたわけです。