行政にどういうことをしてもらえばよいのか。ダイオキシンなどの研究では、特に愛媛大学が活躍されているのですが、1年前まで在籍されていた柳先生にそのあたりを少し提言していただけますか。
環境ホルモンの問題を瀬戸内海でどうするか、住民に何ができるか、それから、行政は何をしなければならないか。話が大きすぎますかね。
【柳】今、国では、農林水産省ももちろん環境庁も入れて、環境ホルモン(正式には含有性内分泌かく乱物質)が体の中に入って、人間だけではなくて魚も、どうなるのかという研究を行っています。もともとはワニのペニスが小さくなった話ですが、何が環境ホルモンかというまずスクリーニングから始めなければいけない。今のところ63種類ぐらい、PCB、ダイオキシン、BHC、DDT、それから最近はプラスティックの可塑剤などが環境ホルモン作用があると言われています。給食に使っている食器や、あるいはカップラーメンなどを定型するときに使ったものに環境ホルモン作用があるのでは疑いがかかっています。
とりあえずは最初に、どの物質が環境ホルモンの働きをして、どの物質はしないかということを国レベルで調べ始めているわけです。愛媛大では、DDTあるいはダイオキシンの濃度をいかに正確に測るか、環境中のどこにどのぐらい蓄えられているかというような研究をしています。ダイオキシンやBHCは、どの濃度レベルで環境ホルモンとして働くのか。それは医学関係の方の研究の話ですから愛媛大学ではしていません。愛媛大学でしているのは環境中のどこでどのくらい発生して、貯まっているかということです。
問題は最初に環境ホルモンの働きをする物質を特定する。次はどの濃度レベルが魚、人間を含めて危険なのか。人間が高濃度の魚をどのくらい食べたら危険なのかという話になってくるわけです。それにたどりつくまで相当時間がかかるので、その前に同時に環境中の魚の中にどのくらい環境ホルモンがあるか。海底の泥の中にどのくらいあるか。もちろん水道の中にもありますし、畑の中にもあるわけですから、そういうものを片っ端から調べていかなければいけない。これはちょっとやそっとではできないわけです。
ご承知のようにフロンなども人間にとっては非常に都合のいい物質で、何の毒性もなかったのだけれど、気がついたらオゾンを破壊してとんでもないことになっている。何万種類という化学物質を我々は作っているわけです。すでに作ってきたし今も作っていて、何とか人間生活を便利にしようとしているわけです。それを全部スクリーニングするのは到底不可能です。
我々は今後は、物質を作ることそのことに関して何らかの方法でチェックすることをそろそろ考えていかなければいけない。すでに作ってしまった物質に関しては、やはり全部しらみつぶしに調べるわけにはいきませんから、どこかで何かの疑いが起こったらすぐ検査に入るような体制を整備しておく。今の環境ホルモンはまさにその段階です。次はその物質が環境中でどう動くかをはっきりさせて、影響をはっきりさせていく。こんなことは到底1つの研究機関や1つの研究室でできるわけがないのです。いかに国として、世界全体で分担して効率よくやっていくかが大事です。そういう意味でもグローバルなのです。人類全体にとっての子孫の問題ですから、世界でいろいろな研究体制も分担してそれぞれ分けてやっていかないと、私は不可能だと思います。
実際に地球環境問題に関しては、すでに世界で分担して研究を進める体制が出来ています。あなたのパートはこれで、これををやりなさいということを世界でまとめて地球環境問題を扱うIPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)という組織があります。5年ごとに地球環境の研究の状態はどうなっていて、今地球の状態はどうなっているということに関する報告を出しているわけです。その5年毎の報告に基づいて、昨年12月の京都のCOP3でやったように、為政者が集まって、アメリカはCO2の排出量を何%削減しなさいということを決めたわけです。やはり環境ホルモンのような物質に関しても、世界全体でまとまって、現在の世界の環境ホルモンの分布状態はどうであって、どういう危険性があって、どうしなければいけないかを議論して世界全体で制御に向かう。愛媛大学がどうするというという次元の問題ではないと思うのです。