今は早くからそういうところへ出入りして教えてもらっていたので今はうちの青年部は、わりと県からも市からも最初に声がかかって、これこれこういうことがあるから考えてくれという相談事や頼まれ事、こちらも当然頼まれ事をわりと近い距離できせてもらっています。
【大谷】柳先生、先程の基調講演の中では、市民レベルでは意識変化が見られるなど期待といいますか、そのようなことを話されましたが、行政の面ではそういう変化を感じておられますか。
【柳】その前にひとつ言いたいことがあります。 私はいろいろな外国を見ているのですが、日本が一番遅れているというか、外国がいいとは当然思わないのですが、この点は外国がよくて日本が遅れているということがあります。
チェサピーク湾と瀬戸内海を比較した場合、チェサピーク湾というのは結構汚れていて大変だったのだけれど、湾の管理、水質やいろいろなことを全体的に管理するために、メリーランド州や周りの市、あるいは大学研究者とNGO、阿部さんのような組織の住民団体が、みんな一緒になって、今、葭川さんが言われたような協議を常にしているわけです。日ごろから行政と市民と研究者が同じテーブルで、定期的に、今この湾がどういう状態にあるからどうしたらいいのかということを協議しているわけです。そこが日本と決定的に違うところです。
日本ではそういう管理責任は行政が委託されて持っている形になっているわけです。実際にはそんなことはよくなくて、いろいろな問題には生産者や住民が様々にからんでいるわけですから、みんなで相談する方が良い。ところが、日本では「お上の言うことは…」という意識というか、伝統が強かったもので、現在のような状態になっている。明らかにそういう面は変えなくてはいけない。
私は瀬戸内海研究会議という瀬戸内海全体で自然科学、社会科学者が600名ぐらい登録して、瀬戸内海のいろいろな環境施策に対して、研究者の立場から何かいろいろなことを提言していこうという組織に属しています。今回の環境庁の施策方針転換に関しても審議会に対して、この会議から意見は出しているのです。そこで出した意見中に1つ入れてあるのは、瀬戸内海の管理体制はやはり今のような行政一本ではもうだめである。環境庁の瀬戸内海環境保全室というところが今回の新しい施策方針を起案しているのですが、そこの担当の係長も、できたら行政と住民団体の合議機関を作りたいのだけれど、住民団体の受け皿がまだはっきりしない。住民団体がまだ弱いというのが行政の今の認識なのです。たぶん今までのいろいろな意見の対立というか、さっき阿部さんが受けが悪いと言われたけれど、その辺の風通しを今からもっとよくして、日本にも近いうち環境の維持、管理のためのシステムを変えないといけないと思います。今のところまだすぐには出来ないと思いますが、方向としては少なくともそういう方向に向かいつつあると思っています。
実際に環境庁や各県の担当者はそのような組織を作りたいと言っていて、どこが最初に何を作るかということが問題になっています。多分各県の方が早く作れると思います。国ではすぐにはできないと思います。だから各県で個別に作っていって、最終的には瀬戸内海全体の組織をつくるように、今から整備していくことが必要だと思います。受け皿として瀬戸内海全域の場合には、瀬戸内海知事市長会議という一応横断的な行政の連絡組織はあるのですが、これは今ほとんど死んでいるわけです。それを活性化して各県、市で行き違いがないようにして、かつ住民団体とも定期的な連絡をするようにすることが大切だと思います。
【大谷】住民が何とかしなければいけないというだけでは、なかなか効果が上がらないので、ある程度行政への働きかけが大切だと思い、行政の対応などについてお聞きしました。
もうひとつ、現在大きな課題となっているのが、見えない汚染の問題だと思うのです。埋め立てや、海がヘドロ状になってしまうこと、カキがどんどん死んでいく、そういうことは目に見えますから、誰でも「これはちょっとひどいな、何とかしなければならない」ということになります。しかし、ひそかに目に見えないところで進んでいる、環境ホルモン、塗料による有機質の汚染など、そういうものの現状、それに対して住民がどう対処すればいいのか。