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先程山城さんが言われましたが、現場の環境がアマモやガラモの生育に適しているところに藻場ができているわけで、今藻場ではないようなところに藻をもっていったからといっても、一代限りは育つでしょうが、そこに繁茂して何代も繁殖するということはできないわけです。ある場所のどういう条件が藻場をつくっているかということを、我々はまだ知らないわけです。なぜここにガラ藻場があるのか、なぜここにアマモが群落をつくっているのかがきちんとわかつてはいないのに、新しいところに藻場をつくろうとしてもうまくいくわけがない。

そういう意味でも、我々は山を知っているレベルでは海を知っていないのだから、その辺をもっと謙虚になって、まず知ることから始める。きちんと知る前には、あまり大口をたたかない方がいい。人工干潟ができるとか、藻場はできるとか、そんなことをはっきり言う人がいるとすれば、大ウソです。そういうことは信用しない、ということが私の意見です。人間はまだそれほど偉くはない。

 

【大谷】人工的な藻場や干潟というのは、瀬戸内法が25年、四半世紀経って、新しい瀬戸内海保全の憲法といいますか、哲学といいますか、そういうものをつくろうという中で出てきているわけです。

現在、環境庁が骨子案を発表しまして、国民の皆さんにご意見を寄せてくださいということを公募しています。阿部さんなどがそれに応募したとかするとか言われていました。関連して瀬戸内法が埋め立ての諸悪の根源と言われましたが、それでは瀬戸内法をどう改正したいのかということを阿部さん、お話しいただけますか。

 

【阿部】環境庁のこのところの動きから簡単にお話ししたいと思います。今おっしゃいましたように瀬戸内法という法律ができて25年、四半世紀たつわけです。水質の目標値は80%というようにある程度来たけれど、景観やさまざまな問題が出てきているということで見直しをしましょうということです。

環境庁は去年の9月に瀬戸内海環境保全審議会というところに、新しい方針を出してほしいということで諮問をいたしました。この間、9月10日に私も傍聴してきましたが、瀬戸内海環境保全審議会がありました。それまで言われていましたのは、規制型の施策、つまり埋め立てはいけないだとか、海砂の採取はいけないだとかということが規制型の施策ですが、それもある程度しないといけないでしょう。それともう1つの柱は、環境創造です。埋め立てたら、そのぐらいの面積のものを干潟を作るとか、藻場を作るとか、それが今言われたような広島であれば出島沖の埋め立てが進んでいますが、それとか岩国沖の藻場の埋め立てです。こういうものをしますが、藻場は貴重なものですから、それを違うところに持っていって藻場を根づかせましょうと、あるいは干潟を作りましょうと、そのかわりにその埋め立てを許可しますというのが今の環境庁の方針、あるいはこれからの方針として去年の9月から答申として出されていたものだったのです。

今、柳先生もおっしゃったように、なかなかここまではっきりと気持ちよく言ってくださる方が少ないので、私もすごく拍手をしましたが、やはり人間の傲慢だと思うのです。神様にしかつくれない自然の生態系を、人間が何十億もかけてつくったとしても、流れて出てしまうということだと思うのです。私たちが瀬戸内海周辺を歩いていましても、今、砂浜が非常に後退していまして、毎年砂を入れますが、また持っていかれます。沖で砂利を掘っていてズルズル持っていかれて、売られた砂利をどこかで買ってきてまた入れる。これは税金でしているわけです。砂利採取だけではありませんが、砂浜の後退というのはいろいろな関連があるわけですが、人工的に自然を作り出すなどという発想はおかしいのではないかということが、環境庁の諮問以来かなり民間の住民からの意見として私たちも出しました。あるいは学者の先生方の、柳先生もたぶんおっしゃってくださったと思うのですが、環境創造などということは違うのではないかという意見がだいぶ出たようです。

それで9月に行われた審議会では、それはある程度後退しました。環境創造という言葉は非常に少なくなりまして、失われた自然を取り戻す施策という言葉に変えられています。ただ私はその辺は素人なので感想といいますか、よくあることから類推して、環境庁と建設や通産などのものをつくってお金をもうける省庁とのせめぎあいの中で、環境庁がどうするかということが、今の自然保護のあり方に問われるといいますか、限界でもあると思うのです。

 

 

 

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