カキにとってすごくいい漁場なのですが、出口が小さくて水がたまりやすいから、上から水が流れてこないと濁った水がいつまでもたまっている。悪いものが発生したときに出にくいのです。今問題になっている赤潮の発生も、逃げ道がないからその器の中でいつまでもわいていく。その周りが本当に赤い。
最近ヘテロカプサという新しい赤潮でカキが死ぬ。二枚貝は全部死ぬ。カキはホタテの貝に種をつけて、干満の差のあるところに1年間置く。自分たちで手を入れることができる。アサリは広島でも掘るところはありますが、全滅状態。広島ではアサリ掘りをするのに余所からアサリを買ってきてまいて、拾ってもらうのです。まいてもそれを拾うから何も残らない。海岸線沿いにとにかく貝類の姿を見ません。
この現状が結局は瀬戸内海の将来ではないかと思うのです。悪いものはたまると出ていかない。そうならないようにいろいろなことをすることがすごく大事だと思います。もう腐ったら最後です。今広島のカキ屋は本当にやめるかどうかまできています。
普通ならカキを打ちはじめている頃ですが、今年は現状で1〜2割の人が打つかどうか。今年全滅という人も何人もいて、死んだイカダの処理だけに経費を使っている。広島湾は最低の状態です。
私はカキを始めて16年になります。昔ある大学教授の講演会で、瀬戸内海が世界でも類を見ないものすごくいいところであると聞きました。潮流もいいし、いろいろな潮が入ってくる。だから瀬戸内海で青物、サバやイワシなどの魚が絶えることは絶対ないと言っていました。広島湾もすごくいいところだ。
カキはだめになる。イワシはとれなくなっている。本当に今、海が変わったとしっかり認知しなければいけないと思うのです。広島の漁業者は転換期で、来年のあては何もないですから、それには何をすべきか、親組合と青年部といろいろなものを交えて話し合いをしています。他にすることがないですから。
ここで結果を出さなかったらもう2年はないです。他県との生存競争をできるカキ屋は残らないと思います。今の数があるから、他県との生存競争ができる。1軒でも多く残らないといけないし、つぶれるところを出してはいけない。そのための戦いというか、話し合い、頭の切り替えどきを今、広島のカキ業者は一生懸命している最中です。皆さんは漁業関係の方ばかりだと思うのですが、やはり若い者の意見も聞いて、ぜひ海を殺さないようにしてください。
【大谷】若いグループは、山へ行って木を植えている。諺の「木に寄りて魚を求める」は的外れのことを指しますが、広島の例や宮城県気仙沼のカキ養殖家の植林の例を聞くと、あながち的外れではない、非常に大事なことだと感じます。
生態系の話が出たので、少し深めてみます。行政も見た目だけではなく生態系を回復しようということで、先程の柳先生や山城さんのお話のように、藻場や干潟、砂浜を人工的につくって海の自浄能力を高めていこうという試みがあります。柳先生に少しおうかがいしたいのです。人工の干潟や藻場などをつくったとしてくどのぐらい生態系が元に戻ってくるのでしょうか。その必要はあるのでしょうか。
【柳】つくれればいいに決まっているけれど、干潟の場合、まだ成功した例はありません。先程述べた五日市の例も到底成功したとは言いがたい。金をかけてずっと干潟を維持するということは、どう考えても経済的にはペイしないわけです。それだけの金をかけるのなら、もっと別のところにきちんとした浅瀬を作った方がいい、という議論になるわけです。技術的には今から研究していかなければいけないけれど、ゼネコンとかがよく宣伝しているような、ミチゲーションでできるから埋め立てはいいのだという議論は、少なくとも現在は絶対成り立たない。藻場に関しても、一応アマモ、ガラモの場合、種をつけて大きくする基本の技術はできているのですが、実際の海域で、広い領域で藻場という生態系を維持するということにはまだ成功していません。