■漁業のグローバリゼーション
もうひとつ漁業に関して目立つことは、漁業のグローバリゼーションと言うのでしょうか。国内のものと海外のものが見分けがつかないぐらい、日本にいろいろな外国の生産物が流れ込んで来ているということです。
その代表的なものがアサリです。瀬戸内海のアサリの漁獲量は1985年には5万t近くあったのですが、今は見る影もありません。数千tで数分の1に減ってきています。そのかわり、アサリの輸入量は1989年ぐらいからデータがあるのですが、どんどん増えてきています。今や瀬戸内海のスーパー等に出回っているアサリも、大半が中国や北朝鮮、韓国のものではないかと言われています。
こういう外国物が増えたということだけにとどまらず、外国からいろいろな病気が入ってきているという問題点もあります。養殖クルマエビもグルメの商品ですが、これが養殖クルマエビの、下の茶色の部分が瀬戸内海での生産量です。1987年ごろは1000トンを超えていたのですが、現在284トン、4〜5分の上に落ちています。
これに関していいますと、贈答用としてクルマエビは重宝されていたのですが、今まで大体お歳暮用、冬の時期の商品だったのです。それが、この頃からお中元にクルマエビを使えないかという話が出てきました。クール宅急便というものが出てきたもので、そういったことが可能になったわけです。お中元用にするためには夏場にクルマエビの種苗を入れなければいけない。国内でのクルマエビ生産のパターンからすれば、大体秋に種苗を入れるパターンが中心なので、夏場に入れる種苗がないわけです。それでやむなく中国の方からクルマエビの種苗を持ってきた。ところが、中国から入れたクルマエビの中に日本にはいないPRDVウィルスがいました。そのウィルスが日本に入ってきて、あっという間に瀬戸内海のクルマエビの養殖場に広がり、大打撃を受けてこのように減っているということです。
愛媛県内でのアコヤ貝、真珠の生産量の推移です。こちらの方もずいぶん近年下がっています。これについてもまだ完全には解明されていないようですが、中国産のアコヤ貝等の何らかの影響もあるのではないかということも言われています。
■化学物質による汚染
もうひとつ、化学物質による汚染もだんだん問題が大きくなりつつあるように思います。
これはダイオキシンの話ですが、ゴミ焼却場から出たダイオキシンが気体になったり灰になったりして、川に行って海に行ってプランクトンに取り込まれて、それが魚介類に取り込まれて人の体内に入るという流れです。もちろん飲料水であるとか、あるいは畜産物であるとか、野菜、果物からのルートも考えられるのですが、やはり今、消費者も非常に気にし始めているのが、魚介頚ルートでしょう。
安全な魚介類を継続的に生産することが、漁業の今後の大きな課題になるのではないかと思います。これはゴミ焼却施設から出るダイオキシンの総量の80%と厚生省が去年ぐらいまで言っていました。ただ最近はそれ以外に残量農薬の影響ということも言われていますが、当面は今のゴミ焼却施設から出るダイオキシンをとにかく減らしていくことが求められていることだろうと思います。
緊急規制値を超えゴミ焼却施設は、広島県では48のうち5つ、愛媛県では38のうち2つありました。これは対策をとればできることですから、緊急的に焼却場から出るダイオキシンを減らしていくことが大切だろうと思っています。
■人工的な干潟・藻場の回復状況
いろんな環境施策も曲がり角にきています。
これは五日市の人工干潟で、広島市の西部にあります。1991年に広島県が42億円を投じてつくった人工干潟です。先程柳先生のお話にありましたように、毎年15〜20cmぐらいずつ沈下しています。これを見てもらうとよくわかるのですが、人工干潟分は現在これだけしか残っていなくなっています。これが潜堤です。海に見えないように堤防が築かれているのですが、黄色の部分が5年間でなくなってしまったという状況です。これにまた新たに砂を投入などするようになれば非常にお金がかかる。金食い虫だということになる。
やはり自然にあるものというのは、あるべくしてある。新たに作り出したものはメンテも含めて大変難しいと言えると思います。