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■海の力の衰え:赤潮&貧酸素水塊

そういう中で、最近海の力が衰えてきているとよく言われます。私は最近、広島から松山におじゃますることがちょくちょくありまして、今年の9月の初めごろ、広島港からスーパージェットに乗って松山観光港に来たのですが、広島港の海の色がまるでしょうゆを流したような色で、これが本当に海かというぐらい汚い海でした。松山観光港に降り立ちますと、鮮やかなブルーのちょうどいい天気だったものですから、これが本当の瀬戸内海なのだなとホッとした次第です。ちょうどその頃、広島ではヘテロカプササーキュラリスカーマという新型赤潮が出まして、カキが壊滅的な打撃を被っていたころです。

これについてはまた後程生産者の方からのご報告があると思います。今回の広島湾のカキが壊滅的な打撃を被ったと背景のひとつとして、貧酸素水塊が広島湾で恒常的に起きているということがあります。生活排水あるいは産業排水から窒素とリンが出てきて、植物プランクトンが増殖する。その植物プランクトンが死んで沈殿し、ヘドロのような形になったものがまたバクテリアに分解される。そのときに酸素が吸い込まれ、酸素がなくなってくるという構造です。これは何度でも繰り返すという状況で、いわば海の成人病のような現象です。

今の広島湾で言えば、これが県の水産試験場で聞いて調べたデータですが、9月2日時点で広島の宮島が対岸に見える大野瀬戸というところがありまして、そこでの溶存酸素量というのがあるのですが、これが大体3以下では甲殻類が致死量、2ppmでは底の魚が致死量とされるのです。それが水面からマイナス5mのところで1.9ppmです。もう魚も貝も、そういった生物が住めないぐらいの酸素不足が生じていたということです。

これはいろいろな学者の方も研究しているのですが、どうも赤潮でカキがやられて死んだカキが下に降り積もって、それが下で腐って酸素をよけい消費したのではないかと言われています。日常的にこういう構造がある中での新たに、カキが死んだことによる負荷で表層からマイナス5mで、そのぐらいの貧酸素状態が生まれた。それで赤潮プラスそういう貧酸素による被害が拡大したのではないかと今言われています。

これは赤潮の発生状況ですが、確かに瀬戸内法が73年ぐらいにできて、ピークはその少しあとなのですが、年間の瀬戸内海での赤潮発生件数が299件から、現在100件を少し割るぐらいのところまで赤潮は減ってきています。これは備讃瀬戸のデータですが、窒素あるいはリンも70年代の半ばからかなり下がってきています。瀬戸内海は総体的にきれいになったと言っていいのだろうと思います。

ただ先程言ったように、これまでこのあたりで発生していたのは、いわゆる窒素やリンなどの栄養塩を多量に消費する赤潮プランクトンで、今広島湾で問題になっているヘテロカプサというのは、新しいタイプの赤潮プランクトンです。このように最初はここに書いてありますように88年に高知で発生しまして、あと英虞湾であるとか福岡湾、大村湾、いろいろなところで出ています。広島湾も95年以降毎年のように出ています。ヘテロカプサというのは、あまり栄養塩を必要としない。だから海の水がしだいにきれいになっていく過程で発生するという非常にやっかいなプランクトンです。

どういう過程で発生するか。善玉プランクトン、海の牧草と言われているのが珪藻で、悪玉プランクトンがヘテロカプサです。善玉の天下がどういう状況であれば続くかというと、雨の水が川からよく流れ込んできているということがひとつの条件です。ケイ酸が土壌や森林から流れ出す。珪藻はケイ酸がないと、窒素とリンだけでは育つことができない。雨がたくさん降り込めば、珪藻が動物プランクトンに取り込まれて、それがまたイワシやアジ、タイ、サワラといった魚への食物連鎖をきちんと進める。これが善玉の証明です。カキもこの珪藻を取り込んで大きくなる。

珪藻は大体海の表面近くでないと栄養を取り込むことができないのですが、それに対しててヘテロカプサは、海底近くのヘドロから出てくるような有機質の窒素やリンも取り込むことができると言われています。強風が吹いたり、秋の大循環と言って表面が冷やされて水が入れ替わる時期によく発生するということです。ヘテロカプサは二枚貝を殺してしまう特性を持った赤潮で、これはカキをやっつけたり、アサリをやっつけたりするプランクトンです。

 

 

 

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