海岸線の現状は、自然海岸、半自然海岸、人工海岸と大きく3つに分けられます。瀬戸内海と全国のデータを見てみますと、全国では自然海岸がまだ55%あるのです。それが瀬戸内海では37%、全国に比べてもかなり海岸が改変されてきています。各府県別に見た海岸線の状況ですが、愛媛県は海岸線が1400kmありまして、その内600km弱が自然海岸で、瀬戸内海全体よりは若干自然海岸が多い程度です。
1973年に瀬戸内法ができて25年になるわけですが、その間の埋め立て面積の推移はここに調べて出しています。左側が瀬戸内海で右側が全国のデータです。1966〜73年の平均に比べてかなり減ってきていますが、関空の工事等で増えているところもあります。興味深いことに、瀬戸内海だけではなく、全国でも埋め立ては1973年以降に減っているのです。瀬戸内法だけではなくて、埋め立て法自体の改正等もあって全国的にも減っている。時代状況としは高度成長期から安定成長に移る時代だからかもしれませんが、全国的にも減っています。
これはもう少し分析が必要なのですが、瀬戸内法の果たしてきた役割を問う意味でも興味深いデータだろうとは思います。瀬戸内法施行後の大規模埋め立てが、どんなところで行われているかということをここに示しています。この黄色いところが特定海域です。これは埋め立てに対する規制を特に強めているところです。実際にどういうところで埋め立てが行われているかというと、特定海域の埋め立ての方が多いのです。フェニックス計画(大阪湾にいろいろゴミを持っていく計画)、関空や大阪湾地域、播磨灘の神戸沖、岡山、愛媛県の東予地域、広島湾というように埋め立てが進んでいます。
■陸と海の分断
埋め立てで海岸線がずいぶん変わってきて、人と海との距離がだんだん開いてきているということです。それだけではなく、陸に目を向けてみても陸と海との水循環というものが、かなり断たれてきているということが言えます。
広島県内のダムの状況です。1963年度時点、今から35年前です。35年前には広島県内の瀬戸内海に流れ込む流域でのダムの数が25ヶ所です。総貯水量が1億2290tです。それが現在、1997年度時点ですが、47ヶ所、総貯水量が3億5376万tで、およそ2.5倍に総貯水量がふえています。
ダムができるとどういうことが起きるかというと、いわゆる山から出てくるいろいろな栄養物質がダムによって遮られて、そのダムからまた出た水が上水道などによって人に使われて、最後は下水道の暗渠を通って海へ直接流れているという状況です。
ちなみに、これは家庭用水道の使用量(人/日)の推移です。先程のダムのデータと同じで、35年前は1日1人100lぐらいだったのが、現在は250lと、約2.5倍に増えています。
そのように、人と海が隔てられただけではなく、陸と海も隔たれるという状況が生まれています。
先程山の養分の話をしましたが、これはいろいろ研究者の方にお聞きしていましたら、ケイ酸です。
いわゆる善玉プランクトンと言われる珪藻、これは海の牧草とも言われるのですが、珪藻を育てるために必要なのが窒素でありリンであります。窒素とリンは赤潮プランクトンも必要とする栄養塩なのですが、珪藻にはそれプラスガラス質のケイ素が必要となるのです。
ダムなどをつくると、ケイ素あるいはフルボ酸鉄という、光合成に必要なものなのですが、そういった山の養分をせき止めてしまうという弊害が指摘されています。国内にデータがないか、いろいろ探してみたのですが、国内にはありませんで、あったのはずいぶん前のデータです。ヨーロッパのドナウ川にダムができて、河口付近で測ってみたら、ケイ酸が1/3ぐらい減っていたという調査があります。
「森は海の恋人」と最近よく言われるのですが、どうもその恋人が仲良くできない状況が生まれているのではないかと思います。