■「新せとうち学」取材
昨年の夏から1年間、この愛媛県も含めて瀬戸内海各地をまわって取材してまいりました。「新せとうち学」というタイトルで、2頁大の連載を24回ほどしまして、最近それをムック型の単行本にまとめて発売を開始したところです。
私どもの取材は「まず瀬戸内海を知る」ということから始まりました。いろいろな研究者の皆さんの成果に依拠しつつ、あるいは現場を見ながら、住民の方、漁業者の方、いろいろな方のお話を聞きながらの取材でした。よく「瀬戸内はひとつ」と言われるのですが、どうも歩いてみると「一筋縄ではいかないな」というのが実感でした。ただ、その瀬戸内海で今、何が起きて、どんな問題があるのかを包括的に何とかまとめてみようと心がけたつもりです。
少し話題提供ということで、OHPで説明させていただきます。<以下、OHP併用>
■ 海離れ現象
まず、私どもが取材をして一番気になったことは、みんなあまり海に行かなくなってきているという、一種の海離れ現象でした。
「海のレジャーに何回行きましたか?」とアンケートで聞きました。今年6月、瀬戸内海地域の住民454人の方に「海の環境家計簿」を書いていただいて、その中で「1年に海に何回行きましたか?」と聞きました。
回答者の方々は比較的海あるいは環境問題に関心の高い層だったのですが、びっくりしたことに「海に一度も行かなかった」人が45.6%、「年に1回だけ行った」人が19.4%です。およそ2/3の人が海に1回行ったか、全く行かないという状況です。
よく行ったレジャーとしては、海水浴が133人と一番多く、次いで釣りが111人、3番目が潮干狩りとなっています。
今、潮干狩りが出ましたが、自由記入欄に寄せられていた意見の中で多かったのが「潮干狩りに行こうと思っても、最近すぐ貝毒が出て、貝毒注意報が新聞に載る。せっかく海に家族で行楽に行こうと思っても、出鼻をくじかれる」ということでした。
マヒ性貝毒は、広島県では広島湾、呉湾を中心に1992年ぐらいから毎年出てきます。一度貝毒が入り込みますと、シストというものが冬の間も海底に眠って、また発芽してきます。愛媛県でも宇和海の方に出ています。あと徳山、高松、大阪湾、かなり瀬戸内海の広い範囲にわたって広がっています。
■海岸線の改変
そういった貝毒だけではなくて、海になかなか近づきにくい状況になっているということも言えると思います。先程柳先生のお話でもありましたが、直立海岸が非常に多くなってきた。
いろいろな方に海辺で話を聞くのですが、最近どうも磯の香りが薄くなってきたのでないでしょうか。昔は海辺を通り過ぎれば、海辺に近づけば、独特の磯の香りがしたのですが、最近そういった香りが確かに少なくなってきているように思います。
なぜ消えたのかというと、やはり直立海岸になりまして、本来浜辺に海藻や藻が打ち寄せられて、そこにウジがわいたりして、そういう自然の循環作用が行われていたのが、今は直立海岸等で行われなくなってきているのではないだろうか。結局栄養分を育むような豊かな渚の環境が減っているのではないだろうかと思います。