南極の氷というのは、水蒸気が雪になり降ってきてそれが凍ったものですから、水蒸気が雪になるときに大気中のCO2を閉じ込めているわけです。そしてそれがそのまま氷の中に閉じ込められていますから、下にいく程古い氷があるわけです。まっすぐ南極の氷のコアを抜いてスライスして分析すれば、例えば、1700年ころの大気が雪になって降り氷に閉じ込められたときのCO2濃度がわかるわけです。その分析結果によると、CO2濃度は1800年には280ppmだったのですが、現在は360ppmになっています。このまま増大すれば、CO2の温室効果、地球から出ていく長波の放射熱をCO2が吸収して、逆に下に反射して下ろしてくるわけですが、それで地球が温暖化し、その結果氷が溶けて大陸の氷河、あるいはグリーンランドの氷などが溶けて海面が上昇すると言われています。この問題は今世界で一番大きい問題になっています。昨年の12月に京都で開かれたCOP3という国際会議では各国のCO2排出量の削減割り当て、例えば日本は何割減らしなさいという数字は出たのですが、実際にそれをどうやるかは大問題なのです。
要するに、上に述べたどの変化を見てもすべて、最近になって急に立ち上がるという変化を示しているのです。人口、エネルギー消費量そして大気中のCO2濃度というのが急激に増加していて、だれが考えてもこのままずっと伸び続けることはありえないし、そういう状態は人間の生存とは相いれないということになるわけです。
■地球環境問題と地域環境問題
今日の問題は特に最後の環境問題です。実は環境問題というのは、大きく考えると2種類のものがあります。
今紹介した大気中の二酸化炭素の濃度がどんどん高くなるというのは、地球環境問題(global environment problem)です。これはどういう問題かといいますと、ある場所から出した物質が地球全体の環境に影響を与える。つまり松山で我々が乗った車の排気ガスに含まれているCO2が、松山の環境を直接変えるわけではなくて、地球全体のCO2濃度を変えるというような問題です。これはフロンが出てオゾン層を破壊するというのと同質の問題です。
もう一方、今から主にお話しする瀬戸内海の水質はどうなるというタイプの問題は、地域環境問題(regional environment problem)と言います。これは何かというと、我々が出した、松山からの廃水に含まれている窒素やリンが、松山の地先の伊予灘あるいは燧灘の海水を富栄養化して、そこに赤潮を発生させる。その結果、貧酸兼水塊ができるというような、ある地点から排出した物質が、その排出点付近の周辺の環境を変化させるものです。
そうすると、地域環境問題というのは、例えば瀬戸内海の水質をきれいにしようと思えば、瀬戸内海全体、もちろん松山だけでもいいのですが、瀬戸内海全体流域の人たちが考えれば、つまり、地域の人たちが協力すれば解決できる問題です。しかし、地球環境問題というのは、いくら松山だけで自動車を使うのを減らすなどしてCO2の排出を減らしても、米、英、アジア、ヨーロッパなどいろいろな国でも全部行う必要があるのです。したがって、地球環境問題の解決への筋道と地域環境問題の解決への筋道は異なっているのです。ただし最後に言いますが、問題の本質としては非常に共通点があって、それを克服しなければ解決出来ないというところは変わりません。
■瀬戸内海の環境問題への取り組み
とりあえず、地域環境問題については瀬戸内海の水質あるいは環境の問題にどのように取り組んでいけばよいのかという話をしたいと思います。
瀬戸内海はご承知のように、紀伊水道から豊後水道まで長さが大体500kmくらいです。幅としては一番狭いところで5kmから広いところで50km程度です。浅いところは20m以浅ですが、深いところは100m以上ありまして、平均水深は大体30mくらいになります。また、瀬戸内海の中には600くらいの島があり非常に美しい景観で知られています。
瀬戸内海の汚染が問題になり始めたのは、1973年(昭和40年)の頃です。そのころなぜそういう問題が起こったかといいますと、それははっきりしていまして、当時瀬戸内海という狭い領域で精製された重油の量は、1日当たり186万バレルでして、これは日本の重油精製量の約40%と半分近くです。