私は昨年7月まで愛媛大学工学部に勤務し、合計25年間愛媛大学でお世話になって、8月から現在の九州大学に移りました。まだ家は松山にあるので、単身赴任で、2週間に一度は松山に帰っています。今日はたまたまいい機会だと思って講演をお引き受けしました。<以下、OHP併用>
■トリレンマ
今日の話題は「森と海」ですが、実は、大きくは「環境問題」ということでくくれると思います。現在の世界は「トリレンマの構造にある」と言われています。「トリレンマ」というのは、たぶん新しい言葉です。「ジレンマ」というのはやるかやらないか、AとBもどちらをとるかという、2つの間で悩むということですが、トリレンマというのは、3つの大きな悩みが今世界にあることを表しています。
そのひとつは、人口問題です。世界の人口は1750年から2050年にかけて、等比級数的に増加してきて、現在、大体60億人くらいです。そして、今の伸びが将来もしばらくは続くだろうといわれています。しかし、実際には近年の人口の伸びは発展途上国(インド、アフリカ、中南米)で起こっていて、日本も含めて先進国ではもうほとんど人口は増えていないのです。逆に、日本やシンガポールの場合はどうやって子どもを増やそうかということが社会問題になるほどです。しかし、世界全体としては未だ人口は増加しているので、これをどう押さえるかということは大きな問題です。
2番目は、エネルギーの消費量の急激な増大です。1900年から2000年までの世界全体のエネルギー消費量は人口と同様、等比級数的に増加しています。エネルギー消費の伸びというのは、実は、紙の消費量や自動車の生産台数、工業総生産、貿易輸出の伸びというものと軌を一にしているわけです。
最も顕著な伸びというのは交通手段の変革によるエネルギー消費量の増大です。人が歩いていた時代から、ジャンボジェットに乗る時代とでは移動の速さが全然違うわけです。その速さの増大を支えているのは、大きなエネルギー消費量の伸びなわけです。だれがどう考えても、地球という有限な空間で人口がいつまでも伸び続けられるわけはありません。どこかで飽和する、つまりあるところで折り合いをつけないかぎり、人類そのものがこの地球上で生き延びていくのは不可能なことです。同じくエネルギー消費の伸びに関しても、今のところ石油が最も主なエネルギー源ですが、そういうものが無限にあるわけではありません。もちろん、石油がなくなるなくなると言いながらも、絞り出していて、実際にはなかなかなくなりませんが、どう考えても、現在のエネルギー消費の増大がそのまま2000年から2100年へと続いていくと、それを支えきれるエネルギー源が地球上にあるとは思えないのです。
最後に、3番目の悩みというのが、今日の主な話題になっている環境問題、その最も典型である地球環境問題です。
1700年から2000年に至る南極のアイス・コア(ice core)を分析すると、過去の地球の大気中のCO2濃度の変動がわかります。