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そういうことに気がついた九州・天草のやはり真珠を作っている方が、4年ほど前に私たちの植林に来て「やはりアコヤ貝も森が育てている。真珠も森が育んでいる」ということがわかって、私たちのテーマを取り入れて「森は海の恋人in天草」なんて銘打ってやっています。「森は海の恋人」は九州の端っこの方でも植林運動のテーマになってどんどん広がっているわけです。

特に沿岸域の場合、陸側をやっぱりちゃんとしないと、つまり最終的には人間の意識を変えていかないと自然界はよくならない。こういう問題は単に技術論では解決しないのです。

仙台湾から三陸海岸、宮城県というところは本当にどこの海へ行っても魚介類がとれます。非常にうまい具合に川が入り込んでいます。阿武隈川、名取川、鳴瀬川、北上川、半島で変わりまして追波川が入り込んでいます。志津川湾は「志津川」というくらいですから、3本も4本も川が入り込んでいます。気仙沼湾には大川。気仙沼湾の隣、2級河川で日本一きれいな気仙川が流れ込む広田湾、その隣は大船渡湾で、盛(さかり)川が流れ込んでいます。大船渡湾の際は越喜来(おきらい)湾、ここは五葉山からくる浦浜川です。

もうリアス式海岸を地でいっているわけです。そういうことが今まであまり解明されていなかったのですが、科学的なメカニズムが解明されてくると、本当に伊達政宗は宮城県といういいところに位置していたなとつくづく最近になって思うのです。

でも、相変わらず行政は海は海で予算を付けています。どういうところへ付けるかというと、人工的に赤ちゃんを作るようなところには何十億という金をかける。そんな金があったらもう少し山の方に、小関さんの船形山をちゃんとするようなところにお金をつぎ込んだらどうなのか。

川にあまりダムを造らずに、我慢するところは我慢して、こういう流れをちゃんとしておいてあげる。昔から、ブナの林を通ってきた川の水が田んぼに入ると肥料がいらないとお米を作るお百姓さんは言っているわけです。ですから、本当にいい森林から流れてきた川の水は、宮城県の農地も潤すし、最終的には海も潤す。主食もとるし、おかずもとる。その原点はこちらにあったと。それを生かすも殺すも結局は人間の気持ち次第ということです。

 

■「森は海の恋人」

平成12年から使う教科書のゲラが来ました。これは全国ほとんどのところで使う小学5年生「社会」の教科書です。ここに「森は海の恋人」というテーマが載ることになりました。ですから、これから全国の小学校は「森は海の恋人」ということに必ず一回目を通す。何も漁民がいいカキをつくるために山に木を植えているという意味ではなくて、最終的には人間そのものの生き方を問う、ということが教育の根幹に触れたのではないかと思うわけです。

それから、全国の3割が使っている中学3年生の国語の教科書に9ページ、「森は海の恋人」という考え方が入っています。宮城県のカキをつくっている人間が、なぜ山に木を植えているのか、ということがテーマになっています。このことも突き詰めていけば人間のところへ行く、ということを子どもたちに提言しているわけです。

何かの機会に皆さんがお子さんとかお孫さんに、私たちの活動を説明して、それはこういうことなのだよ、ということをお話ししていただければ、私たちも非常に力強く思います。

こういうひとつのテーマの運動を繰り返す場合、金銭的にも人的にも全部行政がお膳立てするようなことが多いのです。私たちは一切行政から人的にも金銭的にも援助を受けないで、この10年間やってまいりました。何も行政を敵対視しているわけではないのですが、あくまでもこういう運動は自分たちの血を流してやっていかなければいけない。そうでないと、人の心は心ふるわせられないのです。つまり、行政がお膳立てしてやったことは、予算はこれで事業はこれで終わり、というとそれでもう大体終わってしまうのです。こういうことではやはりいけない。

ですから、これから何か運動をしようという方は、自分たちの力で、身銭を切ってやっていくことが重要ではないかと思っています。

 

 

 

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