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■子どもの教育

私たちは10年前から木を植えていますが、やはり子どものころからの教育しかないと気がつきまして、上流の山の子どもたちを海に招いて、海の生き物のメカニズムがどうなっているか教えはじめたのです。

それが少しずつ功を奏してきています。気仙沼湾に流れ込んでいる大川上流、たった人口6000人の室根村の子どもたちも生活意識が変わってきています。

今の子どもは朝シャンをするらしいのですが、頭を洗うときにシャンプーをどのくらい使うかなんて1回も考えたことがない。シャンプーはなくなったらコンビニでいくらでも売っていて、振りかけ放題。でも、海に連れてきた子どもたちに「君たちが毎日使っているそういう化学的成分は、必ず最終的に海に流れてくる。海の生物、カキの餌になっている植物やプランクトンや海藻には嫌いなものなのだよ」という話をチラッとするわけです。

それから、農業をされている両親がいるので、田んぼで使う農薬や除草剤、特に除草剤というのは草を枯らす薬なのだから、そんなものが流れてきたら、もうカキの餌になっている植物プランクトンなんて一発で死んでしまうという話をする。これはスギが悪いというわけではないのですが、スギに適さないようなところまでスギを植えてしまって、手入れもしない。そうなると下草が生えないで、雨が降ると赤土が流れてきて、海まで最終的には流れてくる。そんな話をチラッと子どもたちにしてきました。

子どもたちの作文を読んでみますと、「私たちは朝シャンで使うシャンプーの量を半分にしました」とか、「歯みがき粉の量まで注意して生活している」というのです。そういう考えがじわじわと浸透していっているのです。

 

■大川流域の人々の意識の変化

さらに、たった人口6000人の室根村が「下流に迷惑をかけられない。海の人に迷惑をかけられない。だから、行政が音頭をとって農業のあり方も環境保全型にしていきましょう」と方向を変えてきました。このあとお話しする小関さんは、農薬をあまり使わないような農業をされています。室根村の農家にもアイガモに草を食べさせて除草剤を使わない、そういう農業がじわじわと浸透していっています。

それから、気仙沼の大川流域に住んでいる人々の心に「今まで海は海、川は川、山は山とバラバラに考えてきたけれども、自然はやっぱりトータルなものだ」という考えが少しずつ浸透していったのです。

10年たって、もちろんいろいろ問題はありますが、確実に家の前の海の状態が変わってきています。何と最近ウナギが現れているのです。私が高校生の頃はウナギをとってアルバイトができるくらい、ものすごくウナギがいました。それが昭和40年代から、ばったり姿を消しました。2年くらい前からウナギが現れているのです。最近はウナギを釣りに来る若者が、家の前に来ています。それから、フランスのブルターニュとかスペインほどではないですが、小さいエビが結構増えてきています。エビが増えれば、今度はスズキがそれを食べに来るのです。食物連鎖でひとつよくなると、どんどんよくなるのです。

 

■海の問題は陸から、人の意識から

今年は広島のカキがヘテロカプサという猛毒プランクトンに被害を受けています。それが来るとカキが口を閉めてしまって、餌を食べなくなる。カキが自殺するわけです。そういうものが出てきて大変なことになっているのですが、それも今までの水産の学者は、原因は海にあるということで、海の水温が上がったとか、今年は天気があまりよくなくてガンガンあたっているから、というようなことに原因を求めてきたのです。どうもそういう原因も陸側にある、ということがだんだんわかってきました。

特に西日本へ行きますと、一昔前に比べて海が少しよくなってきたところは1ヶ所もないのです。

例えば、真珠を作っている人たちがいますが、真珠のアコヤ貝もものすごく死んでいます。原因もいろいろあるのですが、基本的には、真珠の産地へ行ってみますと、裏側はミカン山なのです。例えば、宇和海というところがあります。あそこもリアス式海岸なのです。山を見ると、やたらと裏は全部ミカンにしてしまっているのです。ミカンを植えれば結局、農薬をまくので、これが全部来ているわけです。

だから、宇和海の真珠も太平洋が育てるのであればあまりそのようなことは関係ないのですが、基本的にはこういう関係が重要だと、西日本の方へ行ってもよくわかるわけです。

 

 

 

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