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リアス(Rias)の“s”は複数の“s”ですから、本来は“Ria”かという言葉なのです。フランスから来てビスケー湾があり、スペインのイベリア半島があって、ポルトガルです。ポルトガルの北の国境からギザギザが続き、大西洋の角までをガリシア地方と言いまして、大体1200kmあるのです。ここの海岸はギザギザになっていて、“Rias”というのはここから取った名前なのです。

“Ria”はどういう意味か? 私たちは何となく男鹿半島からずっと岩手県に続く複雑で入り組んだ海岸は海の波が削ってできた海岸ではないか、と錯覚していました。大概の人は、今でもそう思っているし、私もこれは海が削ったのだと思っていました。ところが、“Ria”という言葉の本来の意味は「潮入り川」ということなのです。“Ria”の語源は“Rio”で、川のことなのです。リオデジャネイロ(Rio de Janeiro)などもあの“Rio”です。「川」から“Ria”という言葉ができてきたのです。本来複雑に入り組んだ海岸は川が削った谷なのです。この谷が地殻変動で海底が沈んだために、海の水がゆっくり入ってきた。これが“Ria”の意味なのです。

本場のリアス式海岸へ行きましたら、何となく私たちは「リアス式海岸」と名前がついていて三陸リアス式海岸は世界一かと思っていましたら、とんでもないことでした。本場のガリシア地方のリアス式海岸というのは、気仙沼湾の10倍くらいあるような湾が次々に並んでいるわけです。しかもこのガリシアの海はとれないものはないくらい魚介類の宝庫です。ざっと見て、私が子どものころ、今から40年前の海が今でもあります。もうとれないものはないです。エビの類からカニの類から、魚、海藻、ウニ。養殖業も、ものすごく盛んです。日本ではあまり重要視されていないのですが、ムール貝、シュリ貝の養殖は世界一です。それからホタテ貝もやっております。もちろん、カキもとれています。もう、それはすごいところです。

まず海岸へ行って私は何を見るか。水産の視察ということで普通どこかへ連れていくと何を見せるか。まず船が立派である。カキの産地であれば、カキ処理場が立派であるとか、そんなものを見せて、夜は宴会して帰ってくるのが大体、水産の視察なのです。私は子どもを2人連れていったのですが、まず海岸へ行って、そこの磯にいる生き物を見せるわけです。お金にはならないけれど、そこの海へ行って、そこにいる小動物の種類と密度を見れば、その海が豊かであるかないかすぐわかるわけです。

そうしたら、やっぱり予想どおり、これは15〜16年ほど前に、フランスのブルターニュへ行ったときもそうなのですが、昔、私たちが小さいころ、目の前の海にいたと同じような小さいエビ、これがすごいのです。一度ポンと石を投げれば、エビがピンピンピンと、うじゃうじゃしているのです。それからカニです。最近は昔に比べたら、本当にこういうものが減っています。カニも種類がまたすごく多いし、密度がすごいのです。

それから潮が満ちてくるのを見れば、こういうボラ、ウグイ、クロダイなどの魚類がすごいのです。カニはたくさんいますから、今度は当然のことながら、カニが一番好きな生き物は何だと思いますか。タコですよ。マダコがとれるとれる。すごいですよ。そして筏へ行って、ムール貝の水揚げも見てきたのですが、海から水産物を上げます。そうしたら、ムール貝とかカキの間から飛び出してくる生き物の多さ。もうエビからカニからタコから、ネコラなんていう、カソリックの国ですから十字架のマークのついたカニがいるのですが、そんなものもいる。

子どもたちにそれを見せて、「お前ら、これを見ておけ。これをまず見なければいけない。こういうものが何で育つのか、今度は見せるから」と言って、リアス式海岸というのは川が削った谷ですから、必ず湾の奥には谷が入っているわけです。その川をどんどん遡っていって、今度は上流の森林を見せます。そうするとこの森林は、やはり思っていたとおり、ナラです。実のなるナラの林です。結局、その生物の源は、森林と川と海のマッチングした、これがリアス式海岸である。科学的に、ではどういう物質が川から流れてきて、そういう生き物が育つかというところは、あとの石巻専修大学の先生がお話しされますからやめますが、今度はそういうメカニズムにつながってくるのです。

 

 

 

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