アオコというのは窒素と結びついたものです。だから、アオコが出てくるときは窒素分が多くて、リンが相対的に少ないと思えばいいわけですが、そういう一種の生物の反応のあるパターンがあるわけです。だから、そういうものだけ見ていると富栄養化というのは悪いように見えるのですが、実は海というのは、ミニマムの窒素がなかったら、ミニマムのリンがなかったら、生物は生きていけないのです。そこの部分をよく考えて陸から流す水、それから海に流せる水というものの対応を考えないといけない。
だから、楠田先生は全部落としてしまってもいい、ということですが、そこまでは先生もたぶんお考えになっていないのではないかと思いますが、あえて質問をさせてください。
【楠田】言い忘れましたところをご質問いただきまして、ありがとうございます。
富栄養化しているということと、富栄養化の結果出てきている現象とは、分けて考えないといけないと考えております。窒素とリンが多いだけで、何も今すぐ問題があるということは現在の知識では考えられないのですが、その結果として植物プランクトンが増えるということも、それは食物連鎖の中で餌が増えるという観点からは別に悪くはないということになると思います。人間の方と生態系の方から見てふたつの考え方があると思います。生態系の方からは食物連鎖がうまく回ってくれるようにバランスがとれていればいい、あるいは、食物連鎖を乱すような急激な変化がなければいいということになると思います。それから、人間の方からは、富栄養化の結果、植物プランクトンの異常増殖があって、それらが沈殿して底泥となったときに、酸素を大量に消費し貧酸素水塊を生じるところに一番大きな問題があるというふうに考えています。ですから、酸素があるかぎり、有機物が多くても現実には問題にならないと考えています。
もうひとつは、例えば海水浴場としてきれいにしたいと言われると、現在の博多湾の窒素、リンのレベルをもう少し落とさないといけないということになりますので、どの目標レベルに設定し、どういう利用目的にその場所を使うか、当然、自然保護という観点を含めての目標像なのですが、それを定めることができると、それぞれの目標に応じて栄養塩のレベルというのはある程度決められてくるということになります。ですから、窒素、リンの削減を極力するというのは非常にいいということでもありません。そういう意味では、狭いところに溜まるのが問題となります。外洋に窒素とリンを出しても、外洋というのは一般に貧栄養ですからもっといいと言われる方も結構おられるというのも確かです。
【小野】さっき、有毒プランクトンという例があったものですから、プランクトンには無毒のりっぱなやつがたくさんおりますから、そういうことがちらっと頭に引っかかっていたものですから、今のような質問をさせていただいたわけであります。
【会場5]】楠田先生に質問です。例えば、窒素とかリン酸が海に流れ込んで、プランクトンが大発生する。問題は魚とか貝の役割なんですが、魚がそのプランクトンを食べて、それを人間が採って食べることによって栄養がまた人間に戻っていく…魚の採り方とか発生の仕方とか、その辺はどういうふうに今の循環の中で考えていったらいいのでしょうか。
【小野】それは、楠田先生より私の商売に近いところです。私は動物生態学ですから、答えないと怒られそうです。たぶんそういうことを言われるだろうと思いまして、ちょっと用意をしておきました。
<以下、OHP併用>
あまりいい絵ではありませんが、全体的な話だと思ってご覧ください。
海に窒素やリンが流れ込んでくると、プランクトンの増殖につながります。そういうものを食べて、餌の一部が糞として出てきます。その糞として出てきたものは、当然そこでバクテリアがくっついてもう一度窒素合成をしますので、それがゴカイやカニ等の餌になって、それがまた魚に食べられる。これが通常の意味での循環ですが、この循環の過程で次々に無機化が起こっていきます。「浄化」と書かれているところは、全部無機化をしているというふうに考えてみてください。そうしますと、無機化したものはそこでぐるぐる回れば同じことになるわけですが、少しずつ沖の方に流れていって、先程の貧栄養の大洋の方にどんどん吸収されていく、というのが全体の浄化の仕掛けだろうと考えています。