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日本の国の今の政治のあり方から問題がある。47都道府県がそれぞれ自分の県のことだけ考えて、発展の中で施策をしてきた。日本列島全体の中で、自然を保護するならどこを保護しなければいけないか、開発するのはどこの部分だろうか、全体的な視野がなかったために現状に追い込まれた。21世紀を考えると、食料安保の問題、自給自足体制を作らなければいけない。そういうことに目を向けていかねばならない大事な時期であるから、やはり大きな観点からものごとを進めていきませんと、今の各県、各市町村の中でいろいろなことをやっていても回復はおぼつかないな、と考えます。

コーディネーターの小野先生にお聞きしたいのですが、そういう中で有明海もかなり疲弊してきましたが、諌早湾の例の干拓はどの程度影響しているのか、動物学者としていかがでしょうか。

 

【小野】課早湾が何にどう影響しているかという問題は、まだ全体的な話としてはわからないだろうと思うのですが、私は不思議に思っているのは、十数年前から石を放り込みながら、だんだんと閉め切り堤防は延びてきたわけです。その間、寂として声がなかった、というのは私は非常にふしぎに思っています。やはり、ああいうふうなものはある面でいうと、普通の人が見ればある程度の検討がつくことなのです。実際に閉め切った段階で非常な騒ぎが持ち上がってきたわけでありますけれども、ムツゴロウというものの生活、それからアゲマキというものの生活、そういうものがもともと生物学的にどんな生活をしていて、どういうふうな繁殖力を持ってという話は、実際はあまりわからずに今まで来ているわけです。だから、そういうものをひとつひとつ出していかないと、では、これからどうするのかという問いかけが出てきたときに答えが出にくい。私自身としては、実際はそういうふうなものがなくなるのはいやなのですが、そんなふうに思っています。

もうひとつは、実際有明海の気候は、海を陸化したらどう変化するのかという予想が実は立っていないというのも事実です。昔、大変乱暴な話になるのですが、有明海全域を閉め切ろうという案が国の中でまじめに議論された時代もあります。それは、有明海の底に眠る石炭がねらいでした。そのときに私ども学生でありまして、海の調査をみんな駆り出されてやりましたけれども、こんなところを閉め切るのかなと言いながら調査をやったわけですが、そのときに有明海の特性というものが非常に出てきました。それは、揚子江の河口部分と非常によく似た生物たちが棲んでいるということです。非常に特殊な日本の内海のひとつであるということは、その調査からも浮いてきましたし、そういう声が大きくなったせいでしょうか、閉め切り計画というのは取りやめになりまして、だんだんと縮小に次ぐ縮小で現在の状況に立ち至っている歴史があります。

だから、これをどういうふうなかたちで再生させるにしろ、もしくは陸を造っていくにしろ、私たちが扱ったらいいのかというのは、これは学者が考えるのではなくて、みんなで考える。ただ、考えるときには、しっかりしたデータを元にしなければならないということだけははっきりしている。私は、漠然とですが、そんなことを思ったりしています。

そういう非常にきつい質問をされて非常に困っているわけですが、私も逆に皆さん方に「皆さん方はどうお考えですか」と問い返したい思いであります。

ついででありますので、海と陸という関係から楠田先生におうかがいしたいのは、先程、盛んに「窒素を落とす、リンを落とす」と言われております。ご質問なさった方もどれぐらいコストがかかるのかというご質問だったのですが、実は窒素とかリンとかいうものは生物にとって必須な元素であります。それがなかったらみんな死んでしまうのです。大変大事な元素であります。ところが、窒素がたくさんある。それだけで窒素はいかにも悪者のように思われるのです。今や富栄養化というのが悪いことの標本みたいに言われるのです。「富栄養化の何で悪や?」と言われると、困るところが出てくると思うのです。富栄養化すると赤潮が出てくるから?「では、赤潮が出なかったらいいのか」と、問い返されると、実は問い返された人も非常に困るところがあると思います。一方で、窒素が増えれば必ずアオコが出ます。

 

 

 

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