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【長崎】宇根さんは、水田と海の関係をもっとはっきりさせたい。そういう証拠がないものだろうかと苦しんでおられる、というお話だったように理解しています。私は、海の方から見ますと、皆さんご経験があると思うのですが、これから夏になると「土用のウナギ」というのがあります。8月になると「土用のウナギ」というのを食べるわけですが、最近ほとんど日本産のウナギがなくなってしまったわけです。昔は田んぼへ行っても、川へ行っても、ウナギなんていうのはたくさんとれたわけです。ところが、最近はおそらく台湾産だとか中国産だとか、ひどいのになるとヨーロッパから来たり、そういうウナギを我々は食べているわけです。日本のウナギが非常に少なくなってしまった。ほとんど消えてしまった。ウナギ屋さんの前にいくと、そんな、ウナギが見えないよという話ではありませんので深刻に考えないかもしれませんけれども、日本の川をご存じの方は、ウナギがいなくなったのを、歩いてみればすぐ実感として観察できると思います。

ウナギは太平洋のど真ん中の深いところで産卵すると(どこで産卵するかまだわからないのですが)言われています。私もそうだろうと思います。そしてこのぐらいの針ウナギ、こんな小さいひょろひょろとしたウナギの子どもになって陸に上がってくるわけです。それから、海を脱して淡水圏に入るわけです。川に入ったり池に入ったりして、そしてこんな大きいウナギに成長して、また海に入っていくわけです。その間数年間、田んぼなどに生活しているわけです。その量たるやべらぼうな量です。大変な量のウナギが海から稚魚のときに上がってきて、水田の周辺で餌を食べて成長しています。それが最近いなくなってしまったのは、どうやら取りすぎというよりも水田が変わったからだろうと思います。

もしそうだとすれば、それは宇根さんの方に問題をお渡しして、少なくとも水田の研究者と海の研究者とがウナギのことぐらいは一緒になって研究したらどうですか。確かに、もし研究が進めばかなりはっきりしたことがわかってくるのではないか。少なくとも海で生まれたウナギが陸で育って大きくなる、水田で育って大きくなるんだよと、そのウナギが少なくなってしまったんだよと、そういう事実だけははっきり申し上げることができるということです。

 

【宇根】お言葉ですが、水田の研究者というのは、かつては稲だけしか研究していない。田んぼの土は研究しています。水も若干研究しています。最近は、生き物を研究しようということで、害虫、益虫、ただの虫の研究もやっと学会で始まりかけたぐらいです。魚にいたっては、水田の研究者はいまだにまったくゼロです。例えば小野先生なんかは、川とか海とか池とかの研究をずっとやられてきたけれども、小野先生たちも田んぼの中は全然踏み込まないわけです。これは農学者にまかせておけと。それで、長崎先生たちは海が一辺倒。だから、もちろん、提案の趣旨はよくわかりますけれども、今の学者では無理ではないかという気がします。やはり自分の領域ばかりで、あるいは領域の中でも、特に田んぼの学者というのは田んぼの中でも生産に寄与しないのはほとんどやらないというような伝統に足を引っ張られています。そうではなくて、もっと別の視点から学問とか研究というのもやっていこうということを、もう少しガチッと提起しないと、言葉だけ「田んぼと一緒に研究しよう」と言っても、たぶん田んぼの研究者は見向きもしないというのが現状ではないか、情けないのですが、そういう気がします。

もう一言、あとで会場の方からも聞きたいのですが、学者の役割は非常に大きいと思います。それはそれで今から本気でやってほしいと思いますが、百姓なり漁師なり市民の役割が、例えばさっき事例を紹介しましたが、百姓も百姓仕事の楽しさ(もちろん米を作る楽しさではなくて、トンボを育てたりメダカをとったりする楽しき)、そういったものをもっと表現すべきだと思うし、漁師も漁師で、海に出て漁をして漁師の仕事の楽しさとかそういうものを当事者どうしが表現しあうというところがまだまだ少ない気がします。それが出てくれば、市民だってもっと実感として田んぼとか海とかというのを身近に感じるし、そういうものが少ないような気がします。

あとで、ぜひ小野先生、その辺を引き出していただけたらと思います。

 

【小野】これは会場への質問のようでございます。私に対して質問を最後に言いましたけれども、これは会場への質問ですので、後程会場からご意見をうかがいたいと思います。

この問題はちょっと置いておきまして、楠田先生に干潟も含めましてお話をいただきたいと思います。

 

 

 

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