それから、森というのは残念ながら所有物なのですけれども、所有物の状態を越えて公益的な機能というのを持っているわけです。これが、大変な能力を持っているわけです。つまり、公益的なというのは、森とまったく関係ないような我々市民、あるいは農民、あるいは漁民が森の恩恵を受けているわけです。農林省で数年前に予算を作る都合か知りませんが、一生懸命、森の公益的機能に関する経済的効果という研究をやったことがあるのです。いろいろな項目があって、森はこういう役に立っている。それを金額に表すわけです。エネルギーの場合は、ガスボンベのエネルギーに換算して出た数字があるのですが、年間24兆5000億という数字が出てくるわけです。24兆5000億というのは日本の予算の半分ぐらいになりますか、年間24兆5000億の公益的な機能を森は果たしているというわけです。これは、大変な役割を森が果たしているということになるわけです。
私は、この数字を信用しないわけではないのですが、24兆であれ、何兆であれ、そのことはあまり開題にはならないだろうと思います。森林の持っている公益的な機能というのを我々がどう考えるのだろうということに問題がかかっているのであって、金額で換算してそれが1000兆になろうと2000兆になろうと、そのこと自体は問題にならないと考えていますが、これもあとでパネルのところで時間がありましたら議論したいと思います。
私たちは、今言った公益的な効果を持っている森林は残しておきたいと思うわけです。一般にはそうです。ところが、それを持っている所有者はお金にしたいと思うわけです。国がそうです。今の国、日本政府あるいは農林省も森林を伐りたいわけです。伐らないとお金にならない。ですから、どうしても国有林を伐る。ところが、森林がだんだん遠くへ行きますから、伐るのにお金がかかる。外材が入ってきますから、それが高く売れない。だから、伐れば伐るほど赤字になる。そして、3兆円という赤字を抱え込んで林野庁は大変苦労しているわけです。しかし、こういう材木も我々が日常使うものです。大変な資源です。我々の森林をこういうものに使うことは続けなければいけない。公益的な効果があるから林は一本も伐ってはならないという考え方には、私はとてもくみせないのです。ですから、森林資源をどういうふうに公益的機能を維持しながら利用していくかと、林業と公益的機能をどうバランスさせるかということを真剣に考える段階に来ていると考えています。一方的に短絡的な結論を持ち込もうとすると、私は、ほかの環境問題でもみんなそうだと思いますが、ものの解決にはなかなかつながらないということだろうと思います。
さて、そこでどういうバランスをとって考えたらいいか。つまり、森を伐る利益と森を伐らない利益、それをどうバランスさせるかということを考えなければならない。これも一番最後のところでもう少し議論してみたいと思います。
■河川の問題
それから次の問題、河川に行きます。河川は、森とはまったく違って所有者がいないわけです。国、あるいは地方自治体が管理をしています。ですから、「あの川は俺のものだ」という所有権はありえない。国、建設省が管理していると考えていいわけです。しかし、私たちが水を使う。水を使うときに取水するわけです。そしてそれを生活用水に使う。飲んだり、洗濯したり、風呂に入ったりする、あるいは工業用に使ったりする。そういう水を取ることと、それから使った水を排水して流すという、2つの目的に使っています。つまり、ここでも取水と排水という2つの利用の仕方のバランスを考えないといけないわけです。
これは大ざっぱな数字なのですが、日本の全体の河川の18%はだいたい生活用に使われていると言われています。飲んだり洗濯したり、我々が水道の蛇口をひねるとバーと出てくる、あれがだいたい18%。それから、ほぼそれと同じくらいの量、17%が工場で使われるのです。工業用の水として使われるわけです。そして、残りの65%が農業用なのです。これは外国でも畑作をやっているような国では、こんなに大量な水を使わない。水田稲作をやっていますのでどうしても大量の水を使うわけです。65%というと、表層水の半分以上は水田に行ってしまうということです。