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こんなのを使っていたら、まず百姓が実際散布するときに吸います。除草剤は粒です。粒だからこそ、除草剤を散布するときは百姓はマスクをしません。だけど、粒ということは、少しはすれ合って粉も入っているわけですから、それを吸って流産したという事例を僕も聞いたことがあります。それと、田んぼの水というのはもろに井戸水に入りますから、こういう危ない物質を含んでいる除草剤はやはり使わないにこしたことはないということで、15年前、福岡の百姓は福岡市の農協、福岡市の市役所と話し合って、「一切扱わない。福岡市内の田んぼでは使わないようにしよう」ということで決定をして、その年、みんなでダイオキシンを含む除草剤をやめました。これは我々は、今でも自慢に思っていることです。

当時は、僕も農水省から呼びだされて目茶苦茶怒られ、「農水省が安全だと言っているのを、なぜ一介の地方の指導員が危ないなんていうことを言うんだ」とやられました。結果的に一昨年、「このMO、サターンMという除草剤は、新潟大学の疫学調査で胆嚢癌の原因になっている疑いが濃い」ということで、このときは農水省は素早く回収処分に踏み切りました。そして、今年になって、ダイオキシン、環境ホルモンの指摘でしょう。このとき、我々は何を思い知ったかということです。15年前に福岡市はやめましたが、福岡市を流れている室見川というきれいな川からはCNPは若干検出されました。それは前年の残りです。だいたい40%ぐらいが土壌中に残留していますから、前年の残りのやつが検出されました。だけど、翌年からほとんど検出されていません。ところが、筑後川では相当検出されています。そして、その筑後川が流れ下る有明海のカキとかトビハゼとかアガマキから、相当な濃度でこの除草剤が検出されました。

その辺の詳しい経緯は、僕の『田んぼの忘れもの』という過激な本に書いてありますので、もしそういうものに興味がある方は読んでください。田んぼの生き物の世界を書いています。葦書房という福岡の本屋さんから出ていますので、よかったから買ってください。長崎先生みたいに僕も今日持ってきて、あそこで売るべきだったと反省しましたけれど、商売気がないからだめですね。

これに書いてあるのですが、15年間、少なくとも福岡市民は、福岡市の室見川のダイオキシンが含まれていない水を飲めたのです。ところが、筑後川からのやつも汲んできてブレンドしているからだいぶんありがたみが減っているのですが。ただ、その15年間、福岡市の百姓に対する感謝の気持ちはどこかで表明してほしいなと思います。福岡市の百姓は農水省に怒られながらも、危ない除草剤を追放してきたわけです。そして、農薬を減らし、除草剤を減らし、殺虫剤、殺菌剤を減らし、そしてできた米はグリーンコープという生協に出荷されています。ですから、グリーンコープの生協の組合員は少しは知っているのでしょう。つまり、農薬を減らす。できるだけ環境を豊かにしようとする思いは、その田んぼでとれた米を食っている消費者だけが恩恵を受けるわけではないのです。水を通して福岡市民全体に恩恵を与えているわけですが、それを毎日ただのように水を飲んでいる福岡市民はほとんど自覚しない。

ただ、我々も15年前まではそういう除草剤を安全だと思い込んで使ってきていたわけですから、博多湾の魚介類も相当汚染していたのかもしれません。そういう痛みは本当に感じました。だから、農薬を通して、やっぱり田んぼは海とつながっているんだと、そのときは実感しました。だけど、こういう悪い例で実感するようではいけないわけで、もっといい例で実感できないだろうかと思います。

 

■環境vs.生産→どちらも大事

僕も大学校に行って40人ぐらいの学生に教えていますけれども、去年の諌早湾のムツゴロウの話です。

「あなたたちは百姓に将来なる。ムツゴロウを取るか、干拓を取るか?」と質問したわけです。学生はムツゴロウ派は何割ぐらいいたと思いますか。「いや、やっぱりムツゴロウ(生き物)は大事にしなければいけない」と思うか、「いや、やはり将来の食料危機に備えて(これも詭弁ですが)干拓も必要だ」と答えたか。ムツゴロウの方が大事だと答えた学生は何割ぐらいいたと思いますか。100%です。干拓派は一人もいません。最後に、レポートを書けと試験に出したのですが、2名ほどこういうレポートを書いている学生がいて僕は感動しました。

 

 

 

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