日本財団 図書館


つまり、地球上の自然というのは、砂漠に行っても川があります。もちろん、砂漠ですから、だんだん川の水が減っていってしまうのです。下流に行けば行くほど水がなくなって、最後は砂漠の砂の中に消えてしまうのですが、それでも砂漠の川の周りにはちゃんと森があるのです。森というほど大げさではないですが、林があるのです。ですから、常に川の周りには木が生えている、というのが、地球の本当の自然の姿なのです。それはまさに一体なのだ、ということを今は事実として主張できると思います。

それがあってはじめて、川が成り立つのです。川の周りに森があるというのはどういうことか。そこにすんでいる魚から見ると、本から虫が落ちてくる、あるいは木が木陰をつくる。釣りをやる人はご存知でしょうが、人間の姿が見えれば、魚は逃げてしまいます。魚は陰になっていると、安心してすめる。また、木が生えていると、根っこが川岸に張っていますから、その下に必ずえぐれができるのです。根っこが張っている間の土の所だけが削れてしまう。そうすると、魚が逃げ込める場所ができる。つまり、川の周りの森というのは、いろいろな意味で、まずそこに棲んでいる魚をちゃんと養っているということです。そして、木があれば鳥がいる。

やはり、自然というのはつながっている。そして、特におもしろいのは、川というのは、山から海までつながっています。札幌のまちなかでも豊平川、というように、いろいろな川が流れています。ですから、いろいろな自然の中で一番人間と身近な自然というのが川だと思うのです。いきなり海と言われても、ちょっと海岸まで行かないと海は見えませんが、私たちは川を見ることによって、この川の流れて行く先は海なのだ、ということを想像することができます。川の水が流れてきた元は山の森なのだ、ということで、山の森のことを考えることができます。

どんなに都会に住んでいる人間でも、川を手がかりにすれば、自然全体のことを考えられるのではないかと思うのです。私たちは「森と川を語る会」の活動を通じて、「川から海のことも、山のことも考えてほしい」と皆さんに訴えようと思っています。

まさに今、始めようとしていることがあります。北海道はもともとアイヌの人たちが住んでいました。アイヌの人たちは川を中心に住んでいた人たちなのです。ですから、もちろん川には全部名前が付いています。小さい沢だとか、ちょっとした川の周りの崖だとか、すべてに名前がつけられているのです。そういったアイヌの地名をもう一度復活させた方がいいのではないか、と思うのです。

それは和名に変えてしまうと全然わかりません。「石狩川」といったときに、「石」という字と「狩」という字があって、これでは全然意味がありません。しかし、もともと石狩川というのは、「イイシカリベツ」という名前なのです。「イイ」というのは「多い」ということで、「シカリ」というのは、「曲がっている」ということなのです。ですから、「石狩川」というのは、蛇行している、くねくね曲がっている、というのが「イイシカリベツ」なのです。何も「石狩川」という名前をやめろ、ということではないのです。石狩川は石狩川でいいから、同時に「イイシカリベツ」なのだとわかると、やはりこの川は曲がっているのが自然の姿だと皆わかります。

明治以来、私たちはこの曲がった川を、どんどんまっすぐに変えてきたのです。まっすぐにしたことによって、いいことも確かにありました。しかし、逆に悪いこともたくさん出てきているのです。その典型的な例を挙げます。まっすぐにすると、大雨が降ったときに水ははやく海に出ようとしますが、全部が一挙に集中して来ますから、洪水のときの水位が上がってしまう。今まではあちらこちらに曲がって、ゆっくり水が流れてきたのが、一度に来てしまうわけです。そうすると、札幌だとか江別の水位は早く上がり、しかも高くなってしまうのです。そういうことがあるために、例の千歳川放水路をつくらなければならないような議論が出てきてしまった。

石狩川というのは曲がって流れていないといけない。そういうことがわかることによって、皆少しずつ川に対するイメージが変わってくるのではないでしょうか。それで今「アイヌ語地名を大切に」という市民ネットワークをつくろうとしているのです。

川を見ることによって、目の前には見えない海というものをもっといつも意識する。ここでこういうものを流したら、海にどういう影響が出るのだろうか、と。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION