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私は今、川をどうしようか、ということで「北海道の森と川を語る会」をつくり、今8年目です。この会は、「川には森がなくてはいけない」という一言だけでつながっている会なのです。8年前にこの会をつくったとき、普通だったら「森と川を守る会」というような名前にするはずなのですが、私たちはそれは嫌だったのです。何か反対運動をしようとか、ただ自然保護をしようということではつくりたくなかったのです。現実に北海道の主要産業として土建業があって、それで生活している人がいるわけですから。その人たちは川をつくり変えていく、自然を壊していく、ということを、ある意味では職業にされているわけです。そういう人たちがこれだけいるのに「もうここには絶対に手を触れてくれるな」と言っても、とても無理な話だろうと私は思います。そうではなくて、どうしても人間の都合で川を変えなくてはいけないときに、できるだけ自然を壊さない形でできるのではないか、ということです。

実際にそういうことを、スイスやドイツの人たちは20年くらい前からやっているわけです。ですから、どうしても河川改修をしなくてはいけないときでも、やり方があるのではないか。それをお互いに話し合っていけば、何とかいい解決策が見つかるだろう、ということで「語る会」という名前にしたわけです。ですから、語る会は基本的には反対運動はしない、と皆で約束しているのです。

スイスやドイツでやっている「近自然工法」というやり方があります。自然になるべく近い形で、川を壊したときももともとあった自然と同じように復元していくというやり方です。私たちもそういうやり方が一番いい、と主張をしてきたのです。

札幌市内の豊平川や、真狩村にある真狩川などで、そういったことがされてきました。ようやく建設省や開発局が受け入れてくれたのです。ただ、そのまま受け入れてくれればよかったのですが、名前を変えまして「多自然型工法」と彼らは言っています。自然が多い工法だと言っているのです。そこまではよかったのですが、ただ中身がずいぶん違うのです。実際にスイスやドイツで行われているような、本当に自然をなるべく壊さない、壊したときもできるだけ自然に戻すというのとは、少し違うのです。

日本は予算が減ると困るので、目いっぱい工事をしようとするのです。向こうは、できるだけ工事の量を減らそうとするわけです。自然になるべく手をつけないことがベストだ、という考えですから、今まで100メートル工事をしようとしていたら、それを何とか30メートル減らせないか、というところにお金をつぎ込むわけです。その30メートルに減らした後で、できるだけ質の高い工事をして、自然を一度は壊すけれども、またなるべく元通りにしようということをやるのです。ところが、日本は100メートルの工事は絶対100メートルやらなくてはいけない。予算を減らさないためにそうするのです。

ですから、依然として日本では「川づくり」という言葉が使われています。「多自然型川づくり」と言っているのです。これは本当におかしい言葉だと思うのです。自然というのは、人間がつくれるものではないのです。人間の都合でやらなければいけないところは申し訳ないが、多少はやらせてもらう。しかし、「川をつくる」などという、これほど大それた言葉はないと思うのですが、依然として日本では言われているのです。

私たちの会は「川には必ず森がなければいけない」と言っています。猿払川という川にはイトウという魚がいます。10年くらい前に、そのイトウを調べている学生と初めて一緒に行ったとき(ちょうど秋、11月くらい)に川に降りていったのです。そこを見ると、周りから木がわっと川の上を覆っているわけです。そして、直射日光ではなくて、やわらかい木漏れ日が川にさしているのです。その光景を見たときに、直感したのです。「川というのは森があってはじめて川なのだ」と。それまでは、私は何となく「きれいな水が流れていれば川だ」と思っていたのです。私はもともと川の砂利の研究をしていたので、「うまく砂利が流れていれば川だ」とか「瀬と淵があれば川だ」と思っていました。ところが、そのとき初めて、川というのは水があるところが川ということでなくて、周りの森があってはじめてそれ全体が川なのだと気づきました。人間はどうしても「川は川」、「森は森」と分けてしまうのですが、自然というのはそうやって分けられるものではないのだ、ということを直感しました。

それで、川と森、森と川は一緒でなくてはいけない、ということから、そういう会を作ったのです。何となく直感です。では、本当にそうなのか、と世界中あちこちを見て回りますと、やはりそうです。

 

 

 

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