【木谷】いろいろな対処療法が必要ですが、根本から生活を見直す、いろいろな状況を私たちが監視・チェックしていくことも必要ではないでしょうか。
小野先生は森と川をはじめ、自然を守る活動を精力的に続けていらっしゃいます。日頃の活動の中で、海を汚すことにつながる部分にもお気づきだと思います。それでは小野先生、お願いいたします。
【小野】一昨日までイタリアに行っておりました。イタリアで何をやっていたかというと、世界中の人が地球環境を研究する組織があり、その日本代表をしているので、1週間くらい会議をしてきたのです。
地球に今、人間の影響がたくさん出ています。特にCO2が増加して温暖化が起きる、とよく言われますが、人間の影響が全然なかった場合、地球の環境はどう変わるのでしょうか。地球が始まって以来、その環境はどんどん変化しています。恐竜の絶滅のようにいろいろなことが起きています。それを知らないと逆に人間がどれだけ悪い影響を与えているか、ちゃんとわからないのです。人間の影響を全部どけたとき、地球の環境は自然にどう変わるのか、それがわかっていないのが現状です。ですから、今、私たちはそれをまずきちっと調べようとしています。
例えば、CO2は増加するけれども、私たちがいろいろなものを燃やして出たCO2は無限に出て行くかというと、そうではないのです。CO2は地球の中である程度循環しています。そして、CO2を最大に吸収してくれるものが、海なのです。炭酸ガスは水に溶けます。ですから、海に一番溶ける。その溶け方が、いろいろな状況で違うわけです。しかし、いずれにしても、海が最大のCO2吸収源になっていることが、最近の研究でようやくわかってきたのです。
よく「森林が大事だ」と言いますが、森林はやはり炭酸ガスを吸ってくれます。しかし、いずれ木が倒れて腐っていけば、そこからまたCO2が出ます。長い目で見れば結局バランスしてしまうわけです。
しかし、海は一方的に吸収してくれる。海は人間だけでなく、地球上の生物の産みの親であるし、育ての親でもある。海がなければ生活できないのです。
そういう海が今一番危ない状況になっています。水俣病や、その前に赤潮という問題がありました。汚染や環境問題というのは、必ず海から出てくるのです。これは、一見不思議なようですが、全然不思議でも何でもなくて、すべてのツケが結局は全部海に出ているのです。
日本には昔から「水に流す」という言葉がありますが、「流してしまえばもういいんだ。流せばきれいになる」という感覚を、江戸時代から持っていたのです。確かに江戸時代くらいまではそれで済んでいたわけです。というのは、人間の出す悪い物の量がそれほど多くなかったわけですから。とりあえず流せば浄化してくれる、という状態だったのです。
しかし、ここまでくると、浄化しきれないものが出てくるわけです。それが全部海に来る。そして、水俣病が起きた。あれは魚の中に蓄積されたのですが、今回の環境ホルモンもそうです。それらはすべて、貝や魚など海に棲んでいる生物からどんどん検出されてくるのです。海に悪い影響を全部押しつけているということは、はっきりしているのです。
それはどうやって海に出ているのか。川を通じて全部出しているのです。人間の体で言えば、自分の体がどこかおかしいとき表面に兆候が出ます。それが、海に出ているということなのです。体の中のものは血管で運ばれている。その血管にあたるものが川だということです。ですから、川を何とかしない限りは、いくら海をどうこうしようとしても、なおらない。根本をなおさねばならない。もう対処療法だけではやっていけない時期に来ていると思います。
では、川をどうするのか。川に行く前に、まず出す水をちゃんとしなければいけないのです。川に出すゴミをその前にちゃんと処理しなければいけない。海のことを考えると、自分自身の生活をどうしなければいけないかというところまで来ているわけです。