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私ども漁業団体は、公害対策、環境対策を、発足して以来ずっと、30年近くやっています。その取り組みの基本は、陸域から出る海洋に対する負荷がほとんどです。海洋で起きるいろいろな現象もありますが、ほとんどの部分は陸域から起きる現象です。

中には自然界で発生する部分もありますが、その大部分は人間の手によって引き起こされる海洋に対する負荷です。例えば、農業等開発、団地造成、河川の改修、海岸の護岸工事、ダム工事といった、大規模な公共工事があります。これは必要ではありますが、しかし今までのスタンスが海洋汚染につながっていた、沿岸域の魚場破壊につながっていた、ということで、我々がこの20数年来、体を張ってやってきたのです。

森に対する危機にも、我々が知るかぎりでは25年前から取り組んできました。たまたま植樹運動は10年前から始まっていますが、本当に森に着眼し、やってきたという意味では、漁業者が一番、生活を通じてわかっていたのではないかと思います。特に北海道はこの100年間、大規模に組織的にかなりの勢いで公共工事が進められてきましたから、本州方面の狭い海域から比べると、かなり広い海域であっても、与えられた負荷には相当大きいものがあります。

海岸線の三千数十kmの護岸の6割くらいが、北海道では完全にコンクリートで固められています。まさに今、護岸のやり方が問われていて、建設省自体が反省の材料とし、海岸法の改正に着手しはじめています。

磯焼けの原因説というのは、5〜6つあるのです。松永先生はフルボン酸の腐植土ということでずっとご研究されていますが、他にもいろいろなことが言われています。コンクリートから出る物質であるとか、水温説、また畑から出る除草剤と、さまざまな説があり、それが世界的にもあるのです。そういう研究の一部を評価して、早く対策を立ててくれることを我々漁業者は願っているのですが、どうも学問の世界、あるいは行政の世界はそうはいかないようです。それはそれとしても、そういった公共工事の結果がもしあるとすれば、やはりそれを改めてもらわなければいけない。

観光開発の問題としては、今でも5〜6のゴルフ場を抱えています。しかし、観光開発の皆さんも、今は景気が悪いからいったん撤退する、眠る、あるいは放置する、ということが出ています。これも膨大な森を伐採する、その他いろいろな問題がありますが、それがたとえ合法的であっても、現象としてはたくさんの問題が起きます。さらにはスキー場やレジャー施設など、いろいろなものがあります。これらは必要なのですが、それが同時に川下にどういう影響を与えるのかという、法体系の意味づけが残念ながらないのです。

いろいろな事業系の廃水の問題もあります。大規模なものでは、パルプ廃水や鉱山廃水など。一定の分類をしていますが、数えればきりがないほどあります。

酪農系の排水の問題もあります。これはこの植樹運動の原点ですが、別海町の大規模酪農草地造成から植樹運動が起きました。いろいろな問題がもう15年も、その前からもあるわけです。この大規模酪農が今、非常に大きな矛盾に対するいろいろな対策のため、大変な努力をされています。もっと前にそういうスタンスがあったなら、少なくともデンマークその他のように、進んだ酪農対策・環境対策があったならば、と悔やまれます。残念ながら、日本の法体系、認識その他はそのようになっていなかった。ですから、川下の漁民はずっと泣いていたのです。泣いてばかりいられないから、「木を植えるか。やるべ、立ち上がるべ」ということだったのです。

生活排水もいろいろな有害物質を流しています。私自身の台所にある洗剤その他、ずっと流してきましたが、合成洗剤追放運動はもう20年やっています。石けん運動というのも、なかなか難しい。合成洗剤のプラントをいったん造ると、20〜30年、設備投資したものを回収するまでは、絶対にやめません。法律も変えないのです。あらゆる手立てを尽くして、変えないのが当たり前です。しかし、あれからもう20年がたっています。そろそろ設備も変えなくてはいけない、法律もああだこうだと言ってきている。

 

 

 

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