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次の到達点は「法制度を変えていかなくてはいけない」というところに行きつつあるのではないか。森、川、海をつなぐいろいろな法体系、それは河川法であり、森林法であり、いわゆる海洋法であると言われ、大体100年くらい前にできています。1897年、森林法も河川法もその年でした。そういった法体系は、この10年間で大きく見直されてきています。そして、昨年の河川法の改正につながっています。

これらの法体系は、森というものを一つとっても、すべて物として見ていた、防災上の一つの機能として見ていた、あるいはもうけ仕事の林業として見ていたわけです。そういう側面は否めないのですが、我々がこの10年来提起してきたのは、物ではない、同じ物であっても生き物なのだ、生きているのだ、ということです。生きているのだから、単なる防災上の構築物ではないということを、ずっと訴え続けてきたわけです。河川にいたっても、我々が最初に掲げた「森と川と海は一つだ」といったことは、今では皆さん当たり前のようにおっしゃっています。

しかし、我々は漁業者として、本当に痛切に思っていたのです。我々はごく自然に言葉として言っていた頃は、だれもそうおっしゃらなかった。しかし、「森と川と海は一つだ」ということの本当の意味はやはり、そういった法体系に掲げられた物としてのスタンスではなくて、生き物としてのスタンスを我々は言っているのです。それと同時に、そこに住んでいる人たち(森と川と海に住んでいる人たち)も全部分断されて、個々に法体系の中に閉じ込められて、それぞれ事業の追求をしてきたのです。我々漁業者にもそういう一端があります。

そういう法体系は、基本的にこの10年間、森づくり運動の中で問われてきたわけです。我々自身も勉強をしてきましたし、学者の皆さんも勉強してきた。そういう中で「森と川と海は一つ」というような認識が出てきたのではないか。本当の意味での運動はこれからではないか、と考えるわけです。

 

■海洋環境

海洋というのは、私が申し上げるまでもなく、地球のかなりの部分を覆っていて、3億6000万km2だと言われています。海洋の面積の7〜8%が大陸棚と言われます。いわゆる沿岸域の、太陽の光線がさんさんと生物に降り注ぐ範囲、これが大体、大陸棚です。これが面積の中で本当に狭い範囲なのです。この狭い範囲の中で、世界の人たちは1億2000万トンほどの魚を獲っているのです。そして97〜98%が、いわゆる沿岸域、大陸棚で獲っているのです。したがって、この大陸棚は魚にとって産卵・回遊の場であり、ゆりかごなのです。このゆりかごが最近、非常に傷んできた、汚染されてきたのです。

海の働きはここで申し上げるまでもありませんが、私どもの生きる道である魚介類の生産の場であり、食料の生産の場である。そして、海上交通の場でもあり、さらにはレクリエーションの場でもあるのです。薬品や各種の工業原料を供給する場でもあります。従来はこういう認識が大部分だったのです。そして我々自身も、魚介類の生産の場ではないか、と強く思っていたのです。

しかし、今日はそうではないのです。いわゆる非食料である、野生生物の重要な生息の場であり、これらを保護し、育てて、共存しなければいけない、という認識に立っていますし、それを無視して漁業は成り立たないのです。我々の沖合の流し網といったものは、世界的に禁止になって大打撃を受け、何千人の漁業者がそれによって分解し、いなくなっています。それも飲まざるをえないのです。それが現実であるように、やはり様々な生物と共存する場でもあることを忘れてはいけないのです。

もう一つ重要なことは、炭酸ガスを吸収して酸素を供給することにおいて、海は非常に大きな役割を果たしております。沿岸域で育つ海藻類は、重要な酸素の供給の場です。そういったものが、磯焼けその他ではげ坊主になれば、結局温暖化などにつながるわけです。そういう視点もこの十数年の中で、あるいは我々が取り組んできた植樹運動の中で、急速に認識してきました。

 

 

 

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