■磯焼け
皆さん「磯焼け」という現象をご存知だと思います。対馬暖流水が日本海を流れて、津軽海峡と北上する2つに分かれます。熊石の海はペンキを塗ったようになっていますが、ペンキではなくて、石灰藻(主成分が炭酸カルシウム)という生き物なのです。「ウニ焼け」ともいいますが、ウニの身入りは全くありません。ですから、漁師の方がウニをとっても、商品価値がないので放置してあるということです
少なくとも、ここは昭和40年以前は海藻、コンブ地帯だったのです。海藻がなくなるということは、結局ウニやアワビ、あるいは魚もいなくなる、ということを意味するのです。私はこれを「海の砂漠化」と言っています。例えば、「地球温暖化」は我々が知らずに引き起こした現象なので「化」と言います。これは原因も我々が引き起こした現象だと思いますが、その理由もあとで述べます。
いったん石灰藻が覆ってしまうと、半永久的にここには海藻は生えません。私は7〜8年かかって、何とかここに海藻を生やそうと努力をしてきましたが、できませんでした。というのは、この石灰藻は胞子を出すのです。硬いものを入れたら、何でもコンクリートで数年で覆ってしまうのです。それで結局この状態になりますから、海藻は生えません。原因は陸にあるわけですから、海にいくらお金をかけても不可能だということがわかりました。
■石灰藻とコンブの生存競争
石灰藻をアルコール抽出して分核し、それがコンブにどう影響するか、という実験をやりました。
コンブの胞子は無数につくのです。しかし、ついたコンブの胞子を殺してしまう。石灰藻は光合成生物ですから、光が要ります。コンブが覆ってしまえば、自分たちが殺されるので、これは生存競争なのです。
コンブの胞子に石灰藻からアルコール抽出した物質を加えると、コンブの胞子は明らかに生育しません。ということは、石灰藻はコンブを殺す物質を出しているのです。多少老化して弱っていうものはそういう物質を出せませんから、コンブが生える可能性があります。そういうところでコンブはちょこちょこと生える、あるいは傷がついたところから生えるくらいのもので、基本的には一度石灰藻が覆ったらもう生えないというのが我々の結果です。
なお、この実験結果は、アメリカの "Journal of Experimental Marine Biology and Ecology" に出ます。
■砂漠化の原因1]:食害説
海の砂漠化の原因については、いろいろと言われてきましたが、ウニとかアワビがコンブの胞子を食べてしまうという説があります。
しかし、これはよく考えてみると、非常におかしな話なのです。昭和40年以前、冷凍技術が進歩していなかった時代には、ウニやアワビをとっても意味がなかったわけです。せいぜい家でとるだけでした。ですから、今45歳以上の方は、その頃の日本海には素足で入れなかった。それほどウニがいたのです。そうすると、なぜその頃からコンブの芽が食われなかったのか?説明がつきません。
北海道南部の渡島(西部:日本海側)と檜山(東南部:津軽海峡〜内浦湾)の2地域を比較すると、前者は砂漠地帯ですが、後者は海藻地帯です。どちらも水温はあまり変わりません。なぜ、ここに生えて、こちらには生えていないのか。その原因をこれからお話しします。
両地でコンブとウニの比較をしてみます。
檜山(日本海)の場合、1960年以前は冷凍技術が進歩していなかった、あるいは流通の技術がなかったためにウニをとっても意味がなかった。1600トン(現在の渡島と同じくらい)の水揚げ(約10%のアワビ以外はほとんどウニ)をした頃から急にとりだしたのです。
日本海の砂漠化が始まったのが昭和40年代のあたりからですが、ウニはガタンと減ってきています。ふえたという事実はないのです。ウニがふえているなら、ウニが食ったと言えるもしれませんが、ウニは減ってきているのです。ここから「磯焼け」、つまり石灰藻が顕著になりはじめ、コンブやワカメといった海藻が極端に減ってきたのです。
では、渡島の方はどうかというと、ウニについては何も変わらないのです。養殖が始まった84年以降のデータを除いて比較しても、こちらの渡島の方はウニもアワビも何も変わらない。