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■土砂流入問題

北海道の問題についてお話をさせていただきます。

ひとつは土砂の流入で、沿岸に問題があります。これは北海道に限ったことではなく、沖縄は特に顕著であり、木を伐採してサトウキビ畑にしてしまったため、土砂が流れ込んでテーブルサンゴが死滅するという問題があるのです。私が見た種子島もサトウキビ畑にしてしまったため、テーブルサンゴが死んでいます。サンゴは海藻の役目もしていますから、これが死ぬと、そこに魚がいなくなるわけです。

<以下、スライド併用>

私は種子島の町長に「上砂は必ず下に向いて流れるのだから、樹木を残しておけば緩衝地帯になって、土砂の流入を防いでくれる。今からでも遅くない。町として買い上げて、植林すべきではないか。自分たちの農業だけよければ、という考えではなくて、農業も水産業も共存していくことを考えなければならないのではないか」という話をしました。

今、北海道でも上砂流入の問題がありますが、こういうことで防げると思います。

 

■酪農排水と森

今、北海道で問題になっているのが、ウシやブタの糞尿が海に流れることです。アメリカのノースカロライナでは、ブタを(日本とは規模が違って)何千頭と飼っています。その排水によって、今までなかった赤潮(プランクトン)が発生して、魚にだけ影響を与えるのです。魚を殺すと、プランクトンは海底に沈んでしまいますので、後でいくら調べてもわからないのです。最近、日本ではカキだけを殺す新種の赤潮が出てきました。ですから、どうしてもし尿を抑える努力をしなければなりません。しかし、酪農家が自分の所で糞尿を処理するところまではいきません。そのためには、やはり木を使うのです。

北海道というのは将来の食料基地として非常に大切だと思います。これは農業だけではなくて漁業も含めてです。ですから、お互い共存するため、木を植えて、し尿からの窒素を(今窒素ガスは80%)ガスとして逃がす効果があるのです。

森林の枯葉が堆積した腐植土が、窒素ガスとしてどれだけ逃がすか、という実験をしました。腐植土の下では脱窒(窒素ガスとして逃がす)効果がないのですが、腐植土そのものは非常に脱窒効果があるのです。ですから、糞尿が出てきたときに、森林がバッファー(緩衝)の役目をしてくれる。窒素ガスとして逃がしてしまうのです。海にはそれほど負荷を与えないのです。ですから、森林を植える効果というのは、北海道の漁業にとってプラスだろうと考えます。

森林の持つ機能には、例えば、魚をふやす、すなわちプランクトンをふやす効果、海藻を育てる効果などがありますが、今日は時間の関係でそれを省きます。

 

■ダム建設→ケイ酸減少→新種赤潮

森林伐採によって、例えば、ダムを造った場合、海にどのような影響を与えるか。イギリスの「ネイチャー」という雑誌に、35年間にわたってダムの調査をされたドイツの方が発表しています。ケイ酸塩(石・泥の主成分)の濃度変化を追ったところ、ダムができてからはこの濃度が1/3に落ちてしまった。これは非常に大きな意味を持っているのです。

植物プランクトンは、太陽の光と水があれば、基本的には生育できます。そこにケイ素の殻を持つのです。したがって、殻というのはケイ酸塩で作られるのです。だから、ケイ酸塩がないと、珪藻というプランクトンが作られません。スタートが珪藻であれば、これは魚介類につながるのです。

しかし、このケイ酸塩が減ったため、ウズベンモウソウが出てきたのです。ケイ素の殻を持たずに、窒素とリンだけで増えるのです。先程言った、ノースカロライナの新種の赤潮もそうです。そういったものに変わるのです。これは結局、クラゲにつながって、魚にはつながらず、魚の中毒死も出てきます。これは魚介類を増やせないということなのです。ですから、単にダムを造るということが、海に対しては非常にマイナスの影響を与えるということをご理解いただきたいのです。

 

 

 

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