■海の大切さ
私たちは今まで海の恩恵を受けてきました。そして、これからもその海の恩恵を受けないと、58億といわれる人口がとても生存できない。しかし、残念ながら、海の大切さにあまり多くの人が気づいていない。
ゴミの問題では、今でもすぐ沿岸を埋め立ててしまう。沿岸というのは魚の産卵の場、あるいは生育の場ですから、もう一度海の重要性を考えていかなければならないと思います。
■化学物質の影響
人間活動が活発になってくると、そのしわ寄せは必ず海に来ます。新しい化学物質を合成する、あるいはその合成過程で副産物が生まれる。その処理をやらないと、最後は海に影響を与えるのです。この一例として、水銀による水俣湾の汚染があります。これはアセトアルデヒドという化学物質を作ったときに、副産物としてメチル水銀が発生したわけです。
水銀に限らず、鉛もカドミウムもそうですが、人工的に作られたもの以外は、すべて海に含まれています。ですから、その濃度を保つかぎり安全であり、バックグラウンドという言葉を使います。バックグラウンド濃度がどれだけかということが、さっぱりわからなかったのですが、ナノグラム(ng=10-9g)レベルであるということでした。それが1リットル中にあるのかないのか、あるとして、それが1000なのか100なのか10なのか、この辺が全くわからなかったのです。というのは、あまりにも濃度が低いがために、大量の水から濃縮しなければいけない。濃縮の過程で、大気などからの混入があり、正しい値がわからなかったのです。
その頃、原子吸光光度計という金属を測る機器が出てきました。しかし、それを使っても、直接海水の水銀濃度を測ることはできませんでした。我々はアマルガムという水銀の性質を利用して濃縮して測るという方法でやりましたが、正しい濃度を得るためには3年くらいかかりました。それを最初に「ネイチャー」に発表したのが1975年です。大体、海水の濃度が5ng/lではないかと報告したわけです。
昨今は、PCBやダイオキシンという問題が出ています。水銀のような水からの汚染という問題は、外洋まで行くまでには、水の混合を考えますと、千年単位の時間がかかります。しかし、非常に気化しやすいものは、1週間で外洋を汚染してしまうという問題があるのです。
我々が子どものとき、DDTというものを、特に女性などはダニやシラミを殺すために頭に降りかけられたという経験があります。そういう意味でDDTも、おそらく昔から外洋を汚染していたと思いますが、それはわからなかったのです。つまり、機器分析が進歩しなかったからです。最近やっと機器分析が進歩してそういうことがわかってきましたから、いかにそれを防ぐかという努力を、これからしていなければならないだろうと思うのです。
ちなみに、DDTは農薬ですが、日本は1982年に禁止しています。私は10年前から毎年タイに行っていますが、タイでも数年前に禁止されました。しかし、あそこはマラリアの問題がありまして、まだ使っているというのが現状です。